第41話 言いたいこと
「おい、神崎! ……正気かてめぇ!!」
「……犬飼。それは、本当なんだな?」
しかし、花さんは小黒の言うことにも耳を傾けようとはしない。
「神崎さんっっ!?」
「ダメっスよ!!!」
「戦う気なんですか……? この人数を一人で……?」
「……勿論、勝てるだなんて思ってない。
だが、あたしが、残れば、昴達は解放される。
だったら、それが一番良い。頼む、逃げてくれ」
「……」
「……もう辛いんだ。あたしのせいで昴達が苦しむのをもう見たくないんだ。あたしが昴に関わったせいでひどい目に合わせてしまった。……これからもないとは言い切れない」
「……それは、そうかもしれませんね」
僕は、ゆっくりと花さんを見上げる。
花さんは、少し諦めたような顔つきのまま、少しだけ微笑んで見せる。
そして今度は、悲しそうな顔で、けれど、
何かを決意したのだろう、
意思の強さは感じられる。
「さぁ、逃げるんだ。昴。羽川ちゃん達も」
ーー本当にこの人は……!!
花さんに対して、苛立ちが募る。
最初に出会った時からそうだった。
全部1人で抱え込もうとして……。
「そんな……」
「嫌っスよ! 姉御を置いてなんて!」
「……それで、全部、責任を取ったとでも言うんですか?」
僕は、花さんに鋭い視線を向けて、
言い放った。
「昴くん……!?」
「姉御の旦那!?」
「それは……」
吃る花さんに対して、さらに言い放つ。
「花さん……貴方は卑怯者です」
「そうだな、本当にすまない……」
「沢山、巻き込んでおいて……。それで、
関係を断ち切ればそれで終わり。そんな花さんは……正直、とても嫌いです」
「昴君!!」
「……良いんだ羽川ちゃん。その通りだ……。本当に、償いきれないことをした。昴のいう通りだ……これで終わりだなんて、虫が良すぎる話だ。これで許してくれだなんて思わない。
昴、気がすむまであたしを殴ってくれ。そうでもしないと気が済まない」
「ちょ、ちょっとふたりとも!!」
「そうですか、じゃあ……」
僕は、ギュッと拳に力を込めると、
花さんに、ゆっくりと近づく。
「ちょっと待って宮川くん!!」
「姉御の旦那!!」
2人が必死に呼び止めるが、僕はその声には耳を傾けず、
花さんの元へと近づく。
「こ……こんな2人見たくないっスよ……!!」
「おぉん!? 仲間割れか!? 俺っちは好きだぜそういうの!!
ぎゃっひゃっひゃっ!!」
「思いっきりやってくれ」
「当たり前です」
花さんは目を瞑り、殴られる決意を固めたようだった。
そして、僕は花さんの頭目掛けてーー。
……軽くチョップした。
「す、昴……?」
「はぁ……全く花さんには困ったものですよ!!」
僕は、頭を抱えながら、呆れていると言う所作を、大袈裟に行う。
「……あ、あぁ……すまない」
花さんは、キョトンとした表情を浮かべていて理解していない様子である。
謝罪を述べる。この人は本当に!!
「違います!! 僕が花さんと関わったことで悪いことしか起きてないと思ってることにです!!」
「……!?」
僕は花さんの肩を掴む。
花さんは何が起こったのか理解できずに目をパチクリとさせている。
「……確かに、花さんと関わってから、色んなことが起こりました。不良に絡まれたり、襲われたりもしました……花さんと出会う前の僕だったら、味わうことのなかったことばかりです……沢山振り回されました」
ーーこれまでずっと考えていたことを言葉に紡いでいく。不思議と何も考えずに言葉が生まれてくるのは、きっと、ずっと、感じていたことだからなのだろう。
腕だって震えている。
だが……本当に、伝えたいのはこれじゃない。
まだ胸に違和感が残っている。
「……」
「……でもそれは、悪いことばかりじゃない!!」
「……昴」
花さんが俯き気味だった顔をあげる。
「それと同じくらい……いやそれ以上に、一緒にいて僕は楽しかったんです!! 一緒に勉強して……沢山遊んで……!! 楽しかったのは僕だけですか!?」
「……違う、あたしも楽しかった……」
「だったら、どうして!」
「……怖いんだ!! もうあたしのせいで迷惑をかけるのは胸が痛いんだ……!!」
「……僕じゃ、頼りないですか?」
「ち、違うそんなことじゃ……」
「花さん……」
「す、昴……?」
僕は、花さんを抱きしめてから言った。
「一人で背負い込みすぎなんですよ……」
「離してくれ……また、甘えてしまいそうになる……」
少し、声が上ずっている。
「甘えて良いんですよ。
いつも頼りに見えるけど、本当は、不器用で……。でも、そんな花さんだからこそ、僕は好きなんです」
「嫌ってるんじゃないのか……?」
「嫌うわけないじゃないですか。花さん。
一緒に、花さんの抱えてるものを背負わせてください。花さんが一人で背負ってるものを、僕にも背負わせて下さい」
「うぅっ……」
「……迷惑だって2人で背負えば、案外、重くないかもしれませんよ?」
僕は少し、笑みを浮かべながら言う。
「……うぅっ……うっ……」
抱きしめている花さんから、僕の肩に、
ポタポタと大粒の雫が落ちてくる。
きっと、今まで溜まっていた、一人で抱え込んでいたものが、大きかったのだろう。
「うわーん! 姉御ー!! 私も一緒にいるっスううう、離れ離れなんて嫌っスううううううう」
「あ、あたしもよ!! って、あら! ちょっと!! 神楽坂さん鼻水が私の服についてるってばぁ!! しかも、私が神崎さんに抱きつくスペースがないじゃない!!」
「みんな……ありがとう」
僕らは4人で抱き合って泣いた。
「仲のいい奴らだ……いい仲間を持ったな神崎」
すると、これまで黙って見ていた犬飼が吠える。
「……おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!!
俺様のこと忘れてねぇよなあああああああああああああ!? くだらねぇ友情ごっこを見せてんじゃねえよ!! お前らの状況は何一つ変わってねぇんだよ!!!!」
「犬飼……!」
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