第40話 抜け道

 抜け道を一目散に走っていると、

 小黒が、まず口を開いた。


「こんなところに抜け道があったなんてなぁ……」


「はい、ここを通れば安全に出れると思います、最初に入った時に使う入口はもう既に犬飼の仲間によって監視されていました」


「なるほど……相変わらず気持ち悪りぃくらい用意周到なこった。なぁ、神崎」


「……どうしてここにきた」


 小黒の言葉が耳に入ってはいるのだろうが、

 その言葉には返答せず、僕たちを威圧するように、

 冷たい声で花さんが言った。けれど、どこか悲しそうな、

 そんな複雑な表情を浮かべている。


「それは……神崎さんを心配して」


「あたしの心配なんかいらない」


「どうしてそんな事を言うッスか!」


「だって、全部、あたしのせいなんだよ!!」


 花さんは、珍しく声を荒げた。


「あたしが、昴たちに甘えて……関わってしまったから、昴を傷つけて……!

 あたしは、みんなに関わっては、いけなかったんだ……!!」


「で、でも.それは神崎さんのせいじゃないわ! 悪いのは犬飼よ!!」


「そうだとしても、あたしが引き金だろ!? あたしが関わってなければこんなことにはならなかった!!」


「……それは」


 温厚な花さんが、感情を露わにしているのに驚いたのだろう。羽川先輩はそこから何か言いたそうにしていたが、黙ってしまった。


「おいおいまだ逃げられてねぇつーのに。喧嘩してんじゃねぇよ。呑気な奴らだな……ほらあと少しで出口だ。もうちょっとの辛抱……!?」


 小黒の足が不意に止まる。


「なんだこいつら……」


 ーー抜け道を出た先には、先程の人数とは比べ物にならない数の赤服を纏った男達がいた。

 全員鉄パイプを握りしめて。

 先程の3倍は……いる。 

 なんだ……これ……?


「ぎゃっひゃっひゃっ!!!!

 まさか、お前ら、勝ったつもりでいたのか?」


 背後には犬飼がいた。

 ドス黒いオーラが辺りを包むような気がした。


「どうしてこの場所が……?」


「お前ら勝ったとでも思ってたのかあ!?

 神崎のお仲間が、この倉庫に入ってきた時から俺様は知っていたんだよおおおおお!! そして、この抜け道を使う事もなああああ」


「最初から……仕組まれていた……?」


「俺様はなぁ……ただ、叩き潰すだけじゃ満足できなくてなあああ! 希望から絶望へ叩き潰した時の顔が好きなんだよ!! お前らが必死で、希望を見つけ出して、倒したあいつらは、ただの安心させる為の囮だ!」


「安心させる為……」


「あぁ、そうだよおおおおおお!!!

 あいつらは、ただの囮!! そして俺様は知っているふりをして、お前らを逃した!!

 おもしれぇよなぁ!? 俺は喧嘩はそいつの人脈を図る為のものだとも思ってるぜええええええええええ!?

 この人数を率いることのできる不良がどこにいるかなぁ!!!?」


「おいおい流石にこれは聞いてねぇなぁ……!!」


「ぎゃっひゃっひゃっひゃ!!!!!!!

 だがなああああ!!俺様も鬼ではないぜえええええええ!? 一つだけ……チャンスをやってもいい!」


「チャンス……? なんだそれは」


「神崎いいいいいいいいいい!! てめぇだけ残れば見逃してやる!」


「な……!?」


「もうお前らに勝ち目はないことぐらい馬鹿でもわかるよなああああ!? たっぷり神崎をいたぶってやるから、逃してやるっつってんだよ!!」


「そんなこと……させるわけないじゃない!!」


「あぁ!!? なんだこの威勢の良い女は?

 おい、わかってねぇようだから教えてやれよおおおおおお!!」


 途端、鉄パイプを持った一人の男が、

 羽川先輩に近づいてくる。


「……! や、やめなさい」


「まずはそいつから教えてやれあああええ」


「……やめろ!」


「あぁ!?」


「犬飼……さっき言ったことは本当に守るんだろうな?」


花さんが、冷静に、犬飼に向かって話しかけた。

その姿は、まるで、全てを悟ったような、決意を固めた表情だった。


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