第33話 あたしの過ち
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁっ……はぁっ……」
あたしは、走った。
意味もなく、この場から早く離れたかった。
罪悪感でいっぱいだった。じっとしていたら、あたしの自我が崩壊してしまう。
ビル。居酒屋。高級そうなホテル。
あたりの景色が高速で視界から消えていく。
(甘かった……あたしの考えは甘かった)
きっとどこかで、いつか迷惑をかけるかもしれない……
そんな気持ちを抱いたことはあった。
だが、あたしは、今の環境がとても楽しくて。
──昴の優しさに甘えてしまっていた。
甘えていた。自分自身の過ちに、愚かさにようやく気づいた。
今更遅い。あたしは人と関わりを持ってはいけない人間だということに、
こんなにも、こんなにも、気づいていなかった。
情けない。
今回の昴の件でようやく痛感した。
これまでが何も起きなかっただけで、いつかはこうしたことが
起こる危険性はいくらでもあったのだ。
「はぁっ……はぁっ……」
さらに走るスピードを上げる。
羽川ちゃんだってそうだろ……!
あたしに関わったせいで、変な不良に絡まれて怖い思いをさせてしまった。
あの時は、無事に済んだからよかったものの、あの時に
気づくべきだったんだ。
あたしの甘さが。
昴の優しさに甘えていたせいで、昴に怪我を負わせた。
あたしのせいで。
あたしのせいで、みんなを巻き込んでしまうのはもう嫌だ……。
もう誰も傷つけたくない。
あたしを、こんなあたしに優しくしてくれる人達に。
昴が作ってくれたあたしの環境に、もう甘えてはいけないんだ。
「……あたしの馬鹿野郎……うわっっ!!」
あたしはバランスを崩したのか、その場に倒れ込んだ。
「痛い……」
どうやら足首を捻ったみたいだ。
これは、神様が与えたあたしへの罰なのかもしれない。
いや……昴が味わった痛みはこんなものじゃないはずだ。
あたしは、覚悟を決めなければいけない。
「行こう……」
あたしは、意思を固めると、携帯で時刻を確認する。
まだ、時間はある。
この近くに確か公園があったはずだ。
そこで、一旦、水分を取ろう。
こんな状態では、返り討ちにあうだけだ。
♢♢♢
ゴクゴクゴクゴク!!
「ぷはぁ……」
自動販売機で買ったペットボトル飲料は一瞬にして半分以下になった。
自分でも驚くほど、喉が渇いていたらしい。
無我夢中で走っていたからだろうか。
「ふぅ……これを飲んだら行かないとな……」
残り半分を、一気に飲みほそうとした時、目の前のベンチに1人の男が座った。
人気の少ない公園かと思ったら、意外に人来るんだな……。
ゴクゴクゴク。
(よし……飲み干した。行こう)
あたしは、腰を持ち上げ、プリントに書かれていた目的地へと
進もうと思ったのだが、そうはできなかった。
いや……その必要がなくなった。
──なぜなら今……やつが目の前にいたからだ。
「犬飼……!!」
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