第20話 不良美少女と海

 ーーあっという間に真夏だ。季節というものは、不思議だ。冬が来ていれば、寒い! 早くあったかくなってくれー!とか言っていたものだが、いざ変わってみると、早く涼しくなってくれー!と言いたくなる。今は暑い。とにかく暑い。ガンガンと照らす太陽は、きっと加減を知らないんだろうな。


 そんな中、僕は一人更衣室の出口前で、一人、心も身体もソワソワさせながら待っていた。こんなに挙動不審では、周りから見れば不審者にも見られているかもしれない。

 だが、ソワソワせずにはいられなかった。この更衣室の中には、羽川先輩、神楽坂さん、

 そして……。花さんがいるのだ。

 何故、僕らは4人で海へと行くことになったのか、それは、神楽坂さんと花さんの誕生日プレゼントを買った日へと舞い戻る。



 ♢♢♢



 はぁ……なんとか花さんへの

 プレゼント買えたなぁ。

 おつかいで頼まれていたものも買ったし。


「姐御の男! 今日は一日付き合ってくれてありがとッス!!」


「ううん、こちらこそ花さんの誕生日知れたし良かったよ」


 神楽坂さんに会わなければ、花さんの誕生日を知らずにいたわけだ。

 いつも尊敬している花さんに対して、体育祭のお礼も兼ねて、

 丁度、何かお礼をしていたいと、思っていたところだ。


「本当に助かったッス!! それじゃあ私は

 そろそろ帰るッスね! ってあれ……?」


「どうかしたの?」


「そういえば、レシートの下に

 くじ引き券、ついてなかったッスか?」


「え?」


 急いで、ポケットからレシートをだし、確認すると……本当だ。

 確かに、下の方に、くじ引き券がついている。


「運試しってことで、引いてから帰らないッスか?」


「うん、まだ時間も早いし、大丈夫だよ」


「絶対当ててみせるッスよおおおおおおおおお!!!」


「す、すごい気合だね」


 神楽坂さんは当てる気満々のようだ。

 くじ引きなんて、早々に、当たるモノではないと思うのだが……。


 神楽坂さんの勢いに押されながら、

 レシートに書いてあった、くじ引き会へと向かった。



♢ ♢ ♢



『さぁさぁ! 当たって砕けろのくじ引き会だよ!! さぁ、お姉ちゃん達引いた引いたぁ!』


「じゃあまず、私から引くッスね!! おりゃあああああああああああ」


 ガラガラガラ……。コトン。

 白い玉だ。


『残念だお姉ちゃん! はい、外れのティッシュ!!」


「外れたッス……」


 トボトボと、ポケットティッシュを持ちながら、僕の方へ神楽坂さんは帰ってきた。

 さっきまでの勢いが一瞬でなくなってしまった。


「ま、まぁこういうデパートの福引はそうそうあたらないから……」


「そうなんッスか?」


『じゃあ、次は兄ちゃんだな!』


 まぁ、この調子じゃ僕も外れるだろうなぁ。

 くじ運ないし。


 ガラガラガラ。コトン。


『大当たりいいいい!! 一等!! 4名様、海旅行への旅いいいいい』


「ええええええええ!?」


 ♢♢♢


 ということで、羽川先輩と花さんも

 誘って海へ行くことになったのだ。だが……さっきからドキドキが治らない。

 海へ行ったことなんて、勿論ない。僕は、インドア大好きの窓際族だ。

 それに女の子を連れて、だなんて、夢のまた夢だ。

 一応、ほっぺたをつねる。


「夢じゃない……」


 どうしよう。緊張で頭が回らない。


 そんな時だった。トントン。

 誰かに肩を叩かれた。


「ん……? ってうわっ!」


 急な出来事に、驚きすぎて後ろを振り替えると同時に

 思わず、尻餅をつく。


「姐御の男! 驚きすぎッスよ!!!」


「お待たせしたわね、宮本くん」


 サラサラとした銀髪の童顔といえる顔とのギャップのある豊満な胸。

 思わず、初めて出会った時のあの感覚がフラッシュバックし、目が吸い寄せられそうになるのを必死に目線を右に逸らす。


 右には羽川先輩がいた。スラッとした生足に、

 ピンク色のフリル付きの水着。流石は、花さんにイメチェンをさせただけのことはあると言わんばかりの水着の着こなしっぷり。

 胸は……。


「ふぅ……良かった」


 危ない危ない。

 なんとか、精神を取り戻した。


「……何か、凄い馬鹿にされているような気がしたのだけれど、気のせいかしら宮本くん」


「い、いえなんでもありません! って、あれ花さんは?」


「あぁ、神崎さんなら、恥ずかしいから後で行くって言って……あら、あれは」


 羽川先輩の目線に顔を向けると、

 そこには、灰色のパーカーを見に纏って

 身体を隠した花さんと、それを取り囲む2人組の男達の姿があった。


『君、一人? 俺らと遊ぼうぜー』


 まさか、あれはナンパ……?

 一番、危惧していたことが起こってしまった。

 正直に言って、花さんに引けを取らないくらいに、神楽坂さんも羽川先輩も

 どちらも容姿に優れている。この2人が無事にきたので、巻き込まれていなくて

 良かった。と思っていたが、1人になった花さんが捕まってしまっていたか。

 とりあえず、助けに行かないと。駆け足で駆けつけ、

 男達の前に立ちはだかる。


「花さん、大丈夫ですか?」


「ちっ男持ちか……ってこんな、

 へなちょこ野郎と一緒に来たのかよ」


 ぐっ。確かに、間違っていない。

 海へ行くと聞いた時に、せめて、

 筋トレをしていれば良かったとつくづく後悔したものだ。

 それを、ハッキリと言われてしまい、

 そうだよなぁ。と少し納得してしまう。


『なぁ、こんなへなちょこ野郎ほっといて俺たちと遊ぼ……へっ』


 花さんの右拳が、男の鼻をかすめるかかすめないか、ギリギリで止まる。


「昴が、へなちょこ野郎だって?」


 花さんの目つきが変わる。

 それを見た、神楽坂さんも加勢する。


「姐御やるッスか! 助太刀するッスよ!!」


 目の前で、シュッシュッと、

 素早い、パンチを見せる。


『な、なんなんだよお前ら。行こうぜ』


『あ、あぁ」


 諦めて、男達が去っていった。

 あれ、この2人いるなら

 僕要らなかったんじゃ……。


「って花さん! パーカーが……!!」


「ん?」


 殴ろうとした衝撃で、パーカーが脱げ落ち、花さんの真っ白な素肌が露わになっていた。思っていたよりも女の子らしい可愛らしい水着。

 そして、引っ込むところはきちんと引っ込んでいて……

 出るところはきちんと出ている。

 男女問わず、憧れそうなTHE 理想型なスタイルだ。

 その普段とのギャップと魅力的な姿に僕の身体も、目線も、

 立ち止まってしまった。


「昴……」


 それに気づいたのだろうか、花さんが僕に

 問いかける。ま、まずい。これは怒られるぞ。

 そう思ったが、しばらく経っても、いつもの花さんの

 圧がこない。

 てっきり怒られると思っていた僕は、どうしたのだろうかと思っていると、

 その反応は予想外のものとして

 かえってきた。


「そんなに見られるとだな……恥ずかしい……」


 顔を真っ赤にして、モジモジと身体を隠そうとする

 花さん。そんな反応をされると、何か、僕が悪いことでもしてしまった

 気にまでなってしまう。

 そして、てっきり、怒られると思っていたのだが、

いつもと違う可愛らしい反応に

 思わず、僕まで、顔が真っ赤になる。


「な、何か飲み物買ってきます!!」


 ダダダダダダッ。


 その場から逃げ去るように、

 飲み物を買いに行くことで、感情を抑える僕であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る