第13話 練習

「はぁはぁはぁ……」


「昴大丈夫か? 無理はするなよ?」


「は、はい!」


花さんのバイト先のドーナツ店から近い場所で、僕たちはランニングをしていた。


「よし、そろそろ休憩しよう」


「はい……はぁはぁ。すみません、花さんに走る練習付き合ってもらっちゃって」


「あー、言っただろう? いつもの礼だって」


前日、花さんが一緒に走る練習をしようと

誘ってくれたのだ。

花さんは、バイトも勉強もやってるし、

これ以上の負担は

と最初は断ったのだが、最近は、学力も安定してきたし、運動不足だからと言うことで、手伝ってくれている。

本当に頼りになる。

僕もその期待に応えようと、練習を

始めたのだが……一向にタイムは

変わらない。


「どうすれば速く走れるんですかね」


「まぁ、そうだな……勿論、体力もつけることも大事だが、昴の場合、途中でフォームが崩れてしまってるから余計に体力を消耗してしまっている。それが、走るのが遅くなってしまうひとつの原因かもしれないな」


「なるほど……」


確かに、花さんは、走るフォームが僕もよりも綺麗だ。花さんは、中学時代は陸上部に所属していたらしく、何回か賞も取ったこともらしい。


(花さんって本当、凄いよなぁ……ってあれ?)


ポツポツポツ


「あー、雨が降ってきたな……よし、一度、店で雨宿りしようか」


「はい!」


カランコロン。


「あら、宮本くんに花ちゃん、二人ともお疲れ様、これはサービスドリンクよ」


「店長、いつも助かります」


「ありがとうございます」


店長さんは、僕らが練習していることを

知っていて、いつも来てくれるからと、

ドリンクを無料でくれる。

練習は、きついが、花さんや店長さんに

ここまでサポートしてもらったら、

余計に頑張ろうと言う気持ちが強くなる。

気合を入れ直そうとした時。


ザーッッッッ。

雨がさっきよりも強くなる。


「花ちゃん達、これから雨止まないみたいよ?」


「ええ!?」


──タイミングが悪いと言うか、

なんというか……

ついてないな本当に。


「どうしますか花さん?」


「うーん、これだけ降ってたら諦めるしかないね、怪我でもしたら本末転倒だしね」


「ですよね……、じゃあ今日はこのくらいで……って、あ! 僕そういえば傘持ってきてないんでした……」


「あー、あたしもだ。店長、傘、貸してもらえないっすかね?」


「それがね……今、丁度、古い傘は処分しちゃったから、傘が一本しかないのよ、だから二人で一緒に帰ってもらえるかしら」


「あーあたしは全然いいっすけど」


「僕も、それで大丈夫ですよ!」


♢♢♢


テクテクテク。

雨に濡れないように、二人でゆっくりと

歩みを進める。

それにしても雨なんて降るの

久しぶりだなぁ。

というか……近い…!!近すぎる!!

花さんとの距離が!!

いっつも花さんとは一緒にいるけれど、

この距離は近すぎる!!

いつもと違う感じが、僕の胸を

ドキドキさせる。心臓の音聞こえてないよな……。

花さんはというと……いつもと同じく、

表情変えず、歩いている。


「僕が気にしすぎなのかな……」


「ん? なんか言ったか?」


「い、いえ! 独り言です!」


「そ、そうか」


しばらく歩いていると、ダダダダッと何かが後ろから走ってくる。


「おっと」


振り向くと、

そこには、雨具を見に纏った小学生くらいだろうか、元気な子供が二人いた。

近所の小学生かな?

と思っていると、声をかけられた。


「お兄ちゃん達、くっついてカップルみたい!! ラブラブだねー!!」


「な!?」


思わず、声が出る。

僕の反応に満足したのだろうかはわからないが、ニコニコしながら走って、その子供達は去っていった。


そんな事、言っちゃダメでしょ。

今、お兄ちゃん心臓バクバクなんだから。

言葉で言われると余計に意識してしまう。

子供は素直だが、こういうこともズバッというから……。

余計に恥ずかしくなってしまった。

花さんは、この状況をどう

思っているのだろうか?


「花さん?」


「……!? な、なんだ昴」


「いや、なんか急に横を向いて顔を隠してたので何かあったのかと……」


「あ、ああ! その……ちょっと考え事してただけだ! 気にするな!」


へぇー、花さんもボーッとする事

あるんだな。


「じゃ、じゃあ、あたしは家ここだから、

昴も気をつけてな!」


「はい、また明日」



♢ ♢ ♢ ♢ ♢


昴と別れて、自宅へ入ると、

早足で、自室へと向かう。


「あら? 花、どうしたの? そんな顔真っ赤にして」


「な、なんでもないから!!」


自分の部屋に戻ると、布団に顔を埋める。


(相合傘……! カップル! 全く気がついてなかった……そうか、あたし達、そんな風に見えてたんだな、嬉しいような、恥ずかしいような……)


なんとか……誤魔化せてた……よな?

バレてたらどうしよう。

あー! 恥ずかしい! 

ダメだ、昴と一緒に居ると、なんだかニヤついた顔が押さえつけられなくなる!


足をパタパタと動かしながら、

もがく、あたしであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る