第7話 果たし状。

 ガコンッ。


 自動販売機が、ジュースを吐き出す。


「昴は、なにが良いの?」


「え、悪いですよそんな」


「まぁ、色々世話になってるからさ、礼だよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


♢ ♢ ♢


 ーーいつもの図書館の休憩スペースで、

 花さんと、二人で、ジュースを口にする。


 ちなみに僕は、抹茶ラテを選んだ。美味しいのだろうか。


 ゴクッ。


 一口飲んでみる。


……うん、美味い。抹茶の風味が口いっぱいに広がる。飲んだ後の変な渋みもない。

 この自動販売機の抹茶ラテは、初めて飲んだがとても美味しい。

 そういえば、花さんは何を飲んでいるんだろう?

 気になって、花さんの方に視線を送ると、

 花さんは、ブラックコーヒーを

 片手にしていた。


 流石、花さん、チョイスが大人だ。


「花さん流石ですね、ブラックコーヒーなんて」


「……」


 返事がない。


「花さん?」


「……にが……い」


「え?」


「やばい苦い」


 いや、苦いんかい!!

 完全に得意なのかと思ってたよ。


「もしかして、ブラックコーヒー飲んだの初めてですか?」


「あーうん。面白いから飲んでみよーとしたら、苦かった」


 すると、花さんは、自分が持っている抹茶ラテを見つめている。


「え、もう一口、飲んじゃいましたけど……飲みます?」


「ありがと。一口ぐらい良いよ、あたしのと交換しよ」



 僕は、たまにブラックコーヒーを飲むので苦さには慣れている。

 だが、冷静になる。

 あれ……。

 これって間接キスってやつじゃ。

 大丈夫かな。チラッと花さんを見ると、もう抹茶ラテを飲んでいる。

 そうか、花さんは、そういうのは、気にならないんだな。カッコいい。

 よし、僕も男だ!! 気にせず飲むぞ!!


 ゴクッ。

 一口、ブラックコーヒーを飲む。

 あれ? ブラックコーヒーってこんな味だったかな。

 緊張とドキドキで色々とわからなくなってしまったのかも知れない。


 そんな時だった。


「はぁはぁ……やっと見つけたわよ、神崎さん」


 あれ? この人どっかでみた気が……。

 そうだ! 思い出した!!

 この人、テストで神崎さんが寝坊した時に助けてくれた人だ。


「え? あたしに用……? あー、誰だっけ、確かうちのクラスの……

ダメだ忘れた、また今度」


「ああそうじゃあ今度思い出してね! バイバイ!!」


手を振り、僕らに背を向けて、帰ろうとする彼女。


「……」


空白の時間が生まれる。


「ってちょっと待ったあああああああああ」


「あ、なんか戻ってきたぞ昴」


「何諦めてるのよ! てか何忘れてるのよ!! 羽川美鈴はねかわみうよ!! 神崎さんと同じクラスで学級委員長の!!」


「委員長だったんですか!?」


「そうよ!! って、あら、君はテストの時の後輩くん……」


「自己紹介がまだでしたね、

宮本昴です、先日はお世話になりました」


「宮本くんね。覚えたわ。

いえ、あれくらい学級委員長としては当然のことだから……」


「あー、良かったな昴。覚えられたみたいで、それじゃ、あたしは帰るんで」


「ええ、じゃあまた今度……。って違うわよ!! 私が今日来たのは神崎さん、

あなたの生活態度についてよ!!」


すごいノリツッコミだなぁ……。

人差し指でビシッと花さんをこれでもかというくらい指差している。

凄い、真面目な先輩……というか

元気な人だ。


「あー、そうなの」


しかし、花さんは、そんな雰囲気に影響されることはなく、

いつものように気怠げにめんどくさそうに反応している。


「まずは、その制服の着方よ! なんなのよそのダボっとした着方は!!」


「オリジナリティに溢れてて良いってこと?」


真面目な顔で花さんは答える。


「違うわよ!! ちゃんと着なさいって話よ!

ボタンもきちんと閉めてないじゃない!!」


「あー、ボタンはそのー、なんていうか、

単純にめんどくさ……いや、なんかこう、服の隙間に新鮮な空気の通り道を作ってあげたいって感じ?」


「めんどくさいだけでしょ! 本当にもうあなたと来たら……。貸して、ボタン閉めてあげるから」


「えー」


仕方なく、というかめんどくさいだけなのか、わからないが、花さんは、干された布団のように無抵抗である。


「ほら、こうしてボタンを閉め……。あら、

閉まらない。神崎さんあなた結構でかいわね……」


「え? 何が?」


思わず目を逸らす。

僕には、羽川先輩の言いたい事はわかってしまったが、花さんは気付いてないようだった。


「あー、てか、羽川ちゃん? もう放課後だから良くない?」


「ぐっ、確かに放課後までルールで縛る義務はないけれど……」


「ちゃんと着るから、ね?」


今まで見たことのない、キラキラと輝かせた目で、羽川先輩を見ている。


「……信用は全くないけれど、今日のところは良いわ。ただし、教室であったら覚悟しなさいよ! それじゃあ私はこれで。宮本くんも気をつけて帰るのよ」


「はい、また今度」


「じゃねー羽川ちゃん」


「羽川先輩って委員長だったんですね」


「あーうん。そうらしいね」


そうらしいって……。

同じクラスでしょうが。


「じゃあ、そろそろ帰りますか」


「そだね、そろそろバイトだし……」


そのまま、下駄箱に向かい、靴を取る。上級生とは下駄箱の位置が違うので、

いつものように入り口で待っていたのだが……。

なにやら花さんが遅い。

何かあったのだろうか。花さんのところへ向かう。


「花さん、何かあったんですか?」


「あー、昴か、悪いな待たせて。なんか手紙が入っててさ」


「手紙……? もしかしてラブレターとかですか!?」


「いや、そんなんじゃないから。まぁ読めばわかるよ」


「でも、これ花さん宛の手紙じゃ……」


いいからいいからと言うので、手紙を広げてみる。


♦︎♦︎♦︎


『果たし状。神崎花。

明日、19時にて、待つ。覚悟してこい……

場所は……』


♦︎♦︎♦︎



文章の最後、そこには、待ち合わせ場所が書いてあった。


「これって……」

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