第4話
ESOWオリジナルデッキ。
オレの愛車で、今日も池袋を駆る。
俗に言うスケボー、ってヤツだがな。
ジュンク堂から雑司ヶ谷霊園へ。ゆるやかな春風を受けながらタイヤがランデヴー。
キンカ堂跡を抜けて大通りへ。スピードアップ。
右向こうにLABI総本店が見えてきた。
左手にはビックカメラ。
池袋で家電戦争が勃発して久しい。
街ゆくギャルまでもが「ノートパソコンが一番安いのはドコ?」なんていう始末だ。
中古ショップも乱立し、まさに家電激戦区だ。
そんな中、オレが行く店は決まっている。
ドスパラ、東池袋支店。
ワンルーム程度しかない狭いPCショップで、展示品も少ない。
だが店員の知識レベルは高く、選りすぐりの商品がそろっている。
今日は増設メモリを買うために来た。
店内に入ると男の店員が一人。ヘッドフォンで音楽を聴いていてやがる。
爆音で頭を激しく揺らし、客の来店に気づかないようだ。
俺はその店員に軽くげんこつを食らわせる。
「もしも~し?」
「!?」
店員はようやく俺に気づいたようだ。
「よう!ジュン!!supercell初音ミクのフルアルバムがついに発売されたんだ!こいつはスゲーぞ!メルト!恋は戦争!ブラック★ロックシューター!ワールドイズマイン!初めての恋が終わる時!ニコ動の人気曲が全部入ってる!!音楽業界がひっくり返るぜ!!今までは曲作る→歌詞作る→歌手探す→スタジオ借りる→レコーディング→TVかラジオに頭下げて流してもらう、だった。それが曲作る→歌詞作る→ミクさんお願いします→ニコニコになるんだから!!く~!胸が熱くなる!!新しい技術の夜明けを見ているようだ!!」
早口でまくしたてる黒メガネの男。
こいつの名は『クレイジーSダッシュ(略してジーエス)』
パソコン業界では名の知れたギークで、俺がギャングのヘッドをはっていた頃からのダチ公だ。
ご覧の通りディープなミク廃で、DTM版のJasracスレではボカロ擁護の特攻隊として活躍した。
しゃべり続けるジーエスを手で制し、
「メモリあるか?PC2-5300対応で高性能なのがいい」
「わりぃ!DDR2-667全般が品薄でな。入荷待ちなんだ」
不景気の影響か、メモリの供給が逼迫している。仕方無い。
「SSDならあるぜ!ニゴロで爆速だ」
ジーエスはSSDのプライスリストを広げる。
「やめておくわ。6万越えはちょい高いな(09年当時、SSDはまだ高値の花だった)」
「トレンドチェックを欠かせないお前でも、金が無きゃどうしようもねーな」
「そうだな」
「それより知ってるか?」
ジーエスは声をひそめ、東方MADの流れるノートPCをオレに向ける。
八意永琳を素材にした音系MAD。
えーりん動画なのでいつものコメントであふれてると思いきや、
「ニコ厨シネニコ厨シネニコ厨シネニコ厨シネニコ厨シネニコ厨シネニコ厨シネ」
「Vipperから来ますたww」
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」
ほぼ全てのコメントが荒しのようだ。
八意永琳は暴言の海に飲み込まれ姿が見えない。
「Vipperによる一斉ニコ動荒らし。通称“デビルの祭典”が昨日から始まった。
コメント荒らしを基本に、F5攻撃も計画的に行われている」
「ふーん」
「ボカロ、東方、アイマス、御三家が特に狙われて、一部のPはニコ動を退会するほどショックを受けてるらしい」
「ふーん」
「ふーん、てお前、なんとも思わないのかよ?お前だってニコ動クリエイターの端くれだろ」
「俺には関係ない」
「関係ないってお前、Vipperのボスは南池袋2丁目を根城にするギャングっていうウワサだ。このままだとニコ動がネットイナゴに食い尽くされちまうぞ」
「ネットは自由空間だ。荒らしも含めてな。相手にしなきゃいい」
俺はそう吐き捨ててドスパラを出た。
「まてよジュン!ギャングに対抗できる武闘派ニコ厨はお前くらいしかいねーだろ・・・!お前の拳は天下一品でキックだって・・・」
背後でジーエスがわめているが無視する。
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