しかし、彼女のIQは僕の800倍

賀田 希道

第1話 さぁ、ゲームのダイスを回しましょう

 <広義において友達とはなんだい?>

――沈黙。


 <じゃぁ、てめぇにとっての友達っていうのはぁなんなのさ、これに沈黙とかで返しやがったらその不幸顔に一発キツイのをかましてやんぞ?>


――僕にとっての友達。それはある意味で一番答えにくい。おおよそ世界一般的に友達と呼べるニンゲンは僕にはいなかったし、作るつもりなかった。あるのはいつも利害関係で、依存関係で、そしてどうしようもないくらいにくだらない僕の寄生本能。


 鹿と猿のような関係だね、と知人からは言われたことがある。

 猿が落としたきのみを鹿が食べる、という習性のことを言っているらしい。しかして、猿に鹿はなにもあげない。立派な寄生関係の出来上がり、というわけだ。


 目の前の白銀の彼女に言われるまでもなく、僕はいつも僕の目の前を天真爛漫に走っているあいつに依存して、寄生している。

 あいつには僕が必要だ、だから僕はいつもあいつの近くにいてやらなくちゃいけないんだ、と言い訳しているあたりが自分でもどうしようもないくらいに折れ曲がって、ぐちゃぐちゃになった醜悪な僕の本性なんだな、と思う。


 <てめぇさ、そうやって自分を責めて、自虐して、自分の醜悪さを理由にしてるだろ?それこそ醜悪さ。結局のところ、思っちゃいないお前さんは救いようがない。


――ああ、救いようがないさ。でもだからって僕にどうしろ、というのだろうか。少なくとも、僕には僕という存在を終わらせるとか、殺してもらう、とかそんなことはできない。

 もう飽きるくらい試した。

 ナイフとか、身投げとか。

 僕は自分を終わらせる度胸のないニンゲンだ。


 <それは間違いってなもんだろ、てめぇよぉ。自分を終わらせる度胸がある、ないで、救いようの話をしているんじゃないさ。あたしはお前が救ってほしい、というのを期待してたんだぜ?

 なのに随分と、つまらねーことを言うもんだなぁ。そいつぁーつまらねー。大いにつまらねーよ。お前の友達は広義でもお前を救ってくれないってはなっから諦めてるようなニンゲンじゃーつまらねーって話だよ。


 そこで、あたしは最初の質問に戻るわけだ。広義においての友達ってなーなんだ?お前さんにとって。>


――少なくとも、僕は率直に言って誰かが僕を助けてくれるなんて思っちゃいない。世界の果てまで見渡したっていやしない。それなのに、広義での友達を説く理由、あるのだろうか?

 堂々巡りだ。

 もし、答えを出すならそれは依存できる、僕をつなぎとめてくれている苗床かもしれない。あいつは僕の友達ではないけれど、僕にとっての苗床だ。じゃぁ、あいつは僕にとっての友達なのか?


 <あたしが答えを知るわきゃーねーだろ。どこまでがお前にとって友達なのか、それをあたしは知りたかっただけさ。だって友達ってのは「守る」ものだろ?お前がどの程度なら守るのか、そいつを知りてーっていう個人感情だ>


――この人には世界がどれくらい単純に写っているのだろうか?あいつは、あの目見えないあいつはどういう風に世界を俯瞰している?あらゆるものが全部、わかってしまって、知ってしまって、思考のフレーズもなく終わってしまうあいつには、世界がの程度単純に見える?


 だからか、僕はずっと笑みを浮かべる白銀の人の口元を見続けた。理由なんて存在しない。ずっと、黙って。思考する。僕の限られた脳みその思考なんてあいつには一秒の輝きでしかない。

 有名な独裁者もいった通りに、文字通りに。


 < 。>


――かもしれない。僕は寄生虫。他人を犠牲にするニンゲンだ。そういう思考はするかもしれない。


 僕はきっと、板を手放さず、誰かを蹴り落としてゲームを続けるかもしれない。


 そうして僕は眼を閉じて、一人で、ずっとずっと思考し続ける。永遠の果てない夢の中。僕がいつか肯定される、救われるかもしれない、と彼女にそそのかされて、情景を描こうとする。

 でも、


 最後に僕を救うために手首を握るのはいつだって、僕自身で、そこにはそれ以外の顔なかった。

 ほんと、どこにもなかったんだ……

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