10月

第22話

 十月になり、合唱コンクールの練習が始まっていた。

 一年生が『Let's search for tomorrow』、二年生が『予感』、三年生が『春に』が課題曲なのがうちの学校の伝統だ。

 そして、自由曲は『聞こえる』という、合唱の全国コンクールで高校生の課題曲だったものを混声三部合唱にしたもので、めちゃくちゃ難しい。



 あと、テストの結果が戻ってきた。

 三年生のなかで一番最悪な結果だったんだ。

 このままじゃ、都立神村北高校を受けられる成績を維持できなくなってしまうから、結構焦ってしまう。

 でも、伴奏は二年連続の伴奏者賞(言いにくいよね)を取ったりもしている加藤かとう亜香里あかりちゃん。

 指揮も去年の指揮者賞に選ばれた石井くんがやるので、安心して歌っている。

 わたしはソプラノで、歌っていたの。

 悠里ゆうりはテノールが担当。

 声量が大きくて、とてもかっこいいんだ。

「櫻庭くんって、結構かっこいいよね?」

 久保田さんが話していた。

花怜カレン、好きよね?」

「え……。うん。受験が終わってから、告るよ?」

 久保田さんと嘉納かのうさんが盛り上がって、放課後に話しているんだ。

 ビクッとしてしまう。

 ドキドキと心臓が鳴り出す、いやな気持ちになってしまう。

 急いで、家に帰ることにした。

「橘! お疲れ様、途中まで行くか?」

「いいよ? 早く帰らないと、カテキョでいとこのお姉ちゃんが来るの」

「カテキョ、つけたの? 小夜」

 悠里はこれから塾に行くらしい。

「悠里だって、忙しいでしょ? 夜遅くまで、すごいよ」

「俺は……」

 悠里がめちゃくちゃ真剣な顔をした。

「俺は小夜の方がすごいと思う。志望校に向けて、まっしぐらだから」

 少しだけ、ドキッとしてしまって、そのまま走って行くことにした。

「また明日ね!! 悠里」



永莉えりちゃん、ここの問題。わからないな」

 毎週水曜日にいとこの永莉ちゃんが家庭教師として、勉強を教えに来てくれる。

 二十歳で大学二年生の彼女は、英語の教職課程を取っているらしい。

「あぁ……結構難しい問題だね。うん、ここはさっきの応用編だから。ここの式を当てはめれればいいよ?」

「ほんとだ。ありがとう!」

 永莉ちゃんからの宿題は各教科の問題集を解くこと。一日見開き一ページのみだけど、数学と理科、歴史と公民、漢字の練習帳だから……五ページをやらないといけない。

 でも、勉強時間が自然に増えて、そのまま受験勉強ができる。

「小夜ちゃん。帰りに会ったの、彼氏?」

 学校から帰るとき、悠里が一緒にいたのを永莉ちゃんに見られた。

「彼氏じゃないよ!?」

「え!? 違うの?」

 わたしは数学の問題集を開けて、開いた方を下に頭に被ってしまう。

「片想いしてるの~! 悠里を好きな人もいるみたいだし……受験が終わってから、告白しようと思うんだけど」

 結構食らいついてくる。


 永莉ちゃんが帰ったあと、わたしは寝ることにした。

 男バスの練習試合を見たとき、とてもかっこいいんだよね。

 早く、受験のある来年になってほしいって思ってしまうけど、逆になってほしくないとも思っている。

 布団を被って、雪華ゆきかが塾から帰ってきた音が聞こえて、だんだんと意識がフェードアウトしていった。

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