第20話

 その日の夜。

 入浴と夕飯を終えてからの自由時間。

 部屋のみんなで話をしていた。

「あ、そういえば。好きな人とかいる?」

「え~、いるよね? 小夜は」

「み、みゃーちゃん!! やめてよ!」

 部屋のみんなは少し気になってるらしくて、こっちを見ている。

「悠里……、班長だよ!」

「ええ!? 櫻庭?」

「でも……班長って小夜のこと、好きかもよ? だって、朝だってさ、小夜の手を取ってたじゃん?」

 それを久保田さんに言われた途端、みんなが黄色い悲鳴をあげていた。

 少しだけ、朝のことを思い出した。

 女子にあんな感じで、接するのはあんまりいない。

「う~ん。どうしたら、いいんだろう?」

 わたしはみゃーちゃんの方を見ていた。

 もう消灯時間になったので、寝ることにした。



 翌日の朝に清水寺と伏見稲荷、平等院に行くことになっている。

「縁結びのご利益があるって、地主神社が」

 少しだけ時間調節のために、清水寺のなかにある地主神社に行くことにした。

 おみくじを引いてみると、中吉だったの。

 恋愛のところには『待てば吉』……焦ったら、ダメみたいだ。

 わたしは少しだけ、お守りにしようと思ったけど……くくってあった方がいいのかな?

 そんなことを考えてる暇もなく、そのまま電車で伏見稲荷大社へと行く。


 ほんとにうちの学年って雨に呪われてる。

 小学生の頃に動物園に行ったら、ゲリラ豪雨に遭ったこともあったし。

 今日もその例に当てはまってて、伏見稲荷大社から平等院まで行くのに、一つだけ見学地を無くして、そのまま行くことにした。

 平等院の最寄り駅の宇治駅で、同じクラスの班に会った。

 向こうは完全にずぶ濡れ。

 雨の降りが強くなってるし、雷も鳴ってるみたいだ。

 二日目の夜は部屋ですき焼き。

 女子でめちゃくちゃ盛り上がってたけど、みんな疲れていたのか少し静かだった。

 今日のメインイベントは漆器の色付け作業、汚れてもいいように上ジャージを着ている。

「小夜はコンパクトにしたの? きれいな柄にしたね~。小夜らしいよ」

 黒のコンパクトに大きな月とウサギの絵。

 筆で絵を書くのは、少し難しかった。

 理想とは少しだけ離れてしまったけど、これでいいかな? と満足していた。

 わたしはみゃーちゃんの方を見ると、めちゃくちゃ絵を描くのが上手かった。

「みゃーちゃん。上手すぎ!」

 書いていたのは金閣寺……まるで売り物のようにも見えた。

「こういう筆で絵を描くのは、好きなんだよね~」

 本人は出来映えが良いみたいで、そのまま色付け作業は終了していた。

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