恋人代行をはじめた俺、なぜか美少女の指名依頼が入ってくる

夏乃実 (旧) 濃縮還元ぶどうちゃん

第1話 本心を隠す姫乃

 カクヨムコン5の受賞に伴い、書籍では一巻から主人公の口調や全文の修正、加筆、作品の時系列をずらしております。そのため書籍は書籍、WebはWebと違った形という風に把握いただけると幸いです。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354055123585852

 ↑こちらがスニーカー文庫のカクヨム公式連載「恋人代行」書籍版の試し読みページになります。 

 何卒、よろしくお願いいたします。



 ****



 季節は秋の終わり、11月初旬。


 冬が近付いてきたと思わせる冷たい風が肌を刺す今日。

 とある大学の1年教室で、テンションが真反対といっても過言ではない二人が会話をしていた。


「あー、彼氏欲しいー。本当彼氏ほしいぃー」

「……」

「いやホンットに。一体どこに行けば出会いがあるんだろうねー、ひめのッ!?」

「……亜美あみうるさい」

「そんなつれないこと言わないでさ、ひめのだって彼氏欲しいって思うでしょー?」

「思わない」


 スマホを操作したまま、真顔で亜美の促しをバッサリ切った柏木かしわぎ姫乃ひめのは、自身の銀髪の触覚を触る。


「はぁ!? それは意味わかんないって! そんなんじゃ青春できないよ?」

「ん、別にいい。趣味あるから」

「ひめの可愛いのにもったいないの。一応、あんた先輩たちから噂されてるのに」

「うわさ?」

 無口な性格の姫乃は今している会話の通り長く喋らない。真顔でいることが多く感情の起伏も乏しいのだが……、

「ちっちゃくて童顔でかわいいから守ってあげたいーみたいな? いや、彼女にしたいっても言われてるか」

「姫乃はそんなのいらない」


 姫乃の身長は大学一年生にして150cmもない。

 その幼げな容姿と、寡黙で大人っぽい雰囲気のギャップが周りからウケているわけである。


「でもさ、さっきから思ってたんだけどぉ〜、実際のところひめのは彼氏欲しいでしょー?」

「なんでそうなるの」

 スマホの画面から視線を移す姫乃。まんまるとした桜色の瞳を細めて不満そうに亜美に向けた。

『彼氏がいらない』と何度も言っているのに、こう言われたらモヤモヤもするだろう。


「だって、毎日身だしなみをしっかりしてるからさ。カチューシャもしてネックレスもつけて、前髪もちゃんと整えてて触覚も作って。女の子らしさ全開じゃん」

「女の人は化粧して普段よりも可愛く見せる。それと一緒」

「まぁ……確かにそうだけど、確かーにそうではあるけど、それだけじゃここまで頑張れないと思うんだよねー?」

「可愛いと思われたいのはみんな一緒」

「なんかしっくりこないんだよな……」

「勘ぐりすぎ」

 なんて一言を残した姫乃は、椅子からゆっくりと立ちあがった。


「――あっ、どこ行くの?」

「……お手洗い。一人でいく」

「一人で、ね。了解。ちゃんと手を洗うんだよー」

「亜美にだけは言われたくない」

「ちょお!? ウチはちゃんと洗ってるんだけど!? 変な噂立てるようなこと言わないでよ!」

 上手い具合のカウンターを喰らった亜美は、動揺を露わにしながら姫乃に言い返すのであった。



 ****



 用を済ませた後、液体石鹸を使って手洗いをしていた姫乃は心の中でこう呟いていた。


(彼氏、ほしくない人なんていないよ……)

 じゃあさっき『いらない』と言っていたのは? と問われれば単に見栄を張ったから。

 確かに姫乃には趣味がある。趣味を大切に、そして生きがいにしている。

 ただ、その趣味と彼氏がほしいという欲は同じくらいでもあった。

 もう大学1年生の18歳なのだ。そんなことに興味が出てくるのは自然なこと。


 告白をされたことも何度かあるが――初めて告白を受けた時、見てしまった。

 その男子の後ろ、角に隠れてこちらを伺う数人の男子が。

 のちに友達経由で聞いた。


 あの告白は罰ゲームでしていたことを。


 ――最低。

 何度そう思ったことだろう。

 それ以来、男を信用することができなかった。初めての告白がこうなれば当然のことでもあった。


 次に受けた告白も、その次に受けた告白も罰ゲームでされていると疑い、断り続けた。

 今でもその懐疑的思考は続いている。それほど姫乃の心には傷がついた。だから彼氏はほしいのに、どうも勇気が出ない。


 どうしても気になっていることがある。彼氏を作って確かめたいこともあるのにも関わらず……。

『彼氏ができると可愛くなる』その逸話を。


 姫乃は“可愛い”を求めていた。もちろんぶりっ子とはちがう。

 理由は単純で『可愛い』と言ってもらいたいから。そう言われることはやっぱり嬉しいから。


 お付き合いをしながら楽しい日々を過ごせて、可愛くなれるならどれだけ幸せなことだろうかと。


(……って、ばかみたい。そんなこと、今のままだとできないのに)

 クスッと自虐的な笑みを浮かべた姫乃は蛇口から流れ出ている水を止め、隅に置いていた空色のハンカチで手を拭きながら廊下に出る。


 教室に向かう途中、カップルが仲良く会話していた。

「今日一緒に帰ろうね、ブサ男」

「うっせーな。んなこと言ってっと一人で帰んぞブス」

「はいはい。こんなブスが一緒にいないとすーぐ駄々こねるくせに」

「廊下でカミングアウトすんじゃねぇよ!」


 親しいからこそ、相手が傷つかない悪口が言える。そのカップルは別世界にいるように楽しんでいる。


(羨ましいな……)

 じっと見てはいけないのは分かっている。だから尻目に見ながら声に出さずに胸内で思う姫乃。

 カップルに気を取られ、前を見ていなかった一瞬だった。タイミングが悪いとはまさにこのこと。


『ドンッ!』

「ぁぅ!!?」

「あ、ごめーん」

 不意に右半分に強い衝撃が走り、姫乃が手に持っていた空色のハンカチはパタンと床に落ちる。

 急ぎの用があったのだろうか、目の前から走ってきた男の学生は謝りながら走り去っていった。


(もぅ、これだから……)

 鬱憤を溜まる。


(痛かったのに……)

 文句を言いたいのを我慢し、下に落ちたハンカチを拾おうとした矢先――姫乃の視界にとある腕が映る。その腕は姫乃よりも早くハンカチに手を伸び、拾った。


「結構強くぶつかられたようですけど……大丈夫ですか?」

「ん、大丈夫……」

「それなら良かったです」

 ハンカチに付いたホコリを払い丁寧に畳んで渡してきたのは――別の男の人。姫乃の後ろを偶然歩いていたのだ。


「……ありがとう」

「いえ」

 その男の人は小さく微笑んで前を歩いていった。

 たった二言ほどのやり取り、顔も知らない人との会話であったがどこか胸がほわほわとしていた。


 あの手の気遣いはやはり嬉しいのである。


「おかえりー、ひめの」

「ん」

 講義がある教室に戻ると、友達の亜美が声をかけてくる。


「ねぇ、突然なんだけどさこれ見て! さっきTwit○erに流れてきたんだけど! 面白そうじゃない?」

 亜美が明るさ最大のスマホをこちらに向けてくる。

 液晶に表示されていたものは――

「……恋人、代行……?」

「そう! なんか評判良いらしいし今度電話してみよっかなーって思うんだよね! 彼氏欲しかったところだし!」

「……」

 亜美の言葉を返すこともせず、姫乃は集中して見ていた。


「ひめの? おーい」

「……ん、なんでもない」

「相場が2万円ってのは高いけど、これで1日デート体験ができるってちょっと良くない? 一ヶ月のご褒美的な」

「亜美にはそうかも」

「本当に興味がないのかねぇ、ひめのは……」

 姫乃の本心を知らない亜美は、呆れたように深いため息を出してスマホを向かい合った。



 その日の夜、姫乃は自宅にあるベッド上で寝転びながら検索をかけていた。

『恋人代行』そのワードを。電話番号まで。

 ある程度の仕組みを調べた姫乃はTwitterを開き、一日の日課である今日の出来事をツイートする。


『今日男の人にハンカチを拾ってもらった。嬉しかった』

 顔文字もマークも付いていない素朴な文、ツイート。それなのにも関わらず、

『俺なら床に落ちる前にハンカチ拾うけどな?』

『でびるちゃんのハンカチに触れたやつがいるのか!? うらやましいんだが!』

『その男えらい。ワイならハンカチ拾って逃げる』


 など、ネタ要素のある返信がリアルタイムで表示されてくる。


 姫乃のTwit○erアカウント、でびるちゃんのフォロワー数は115,466人。

 そのツイートは3時間も経たずにいいね数が1000を超えるのであった。

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