第62話 悪役令嬢は正史(シナリオ)に反逆する
「……そうか。叔父上がそんな事を」
泣きながら、やっと語った顛末を、シエルは沈痛な面持ちで聞いていた。
「シエル、どうしよう……このままじゃ私っ……!」
「落ち着いて、カタリナ。……こうなったら、僕も、知り得る総てを君に話さないとならないようだ」
「……え?」
言ってシエルは真剣な、男の子の顔になる。私はただ、それを見返す事しか出来ない。
「カタリナ。君に一つ、黙っていた事がある」
「……それって?」
「僕は、叔父上が何故僕の家を没落させたのか、その理由を知っている」
「!!」
驚きに、私の涙が思わず止まる。シエルが、お父様が自分の父を陥れた理由を知っている……?
「順序が、逆なんだ。カタリナ」
言いながら、シエルの長い睫毛が悲しげに伏せられる。
「逆……?」
「最初に叔父上を、君の父親を陥れようとしたのは……僕の父の方なんだよ」
「……!」
言葉を、失った。私はてっきり、お父様が一方的にシエルの父を嵌めたのだと思っていた。
でも、本当は逆だった? お父様がやらなければ、没落していたのはうちの方だった?
「父上は、この国をアリオン王国に売ろうとしていた」
戸惑う私にシエルが告げたのは、更なる驚きの事実だった。
「叔父上はどこからかそれを知り、父上を止めようとした。それを父上は逆恨みして、叔父上を失脚させようとしたんだ」
「じゃあ、お父様が叔父様を陥れたのは……」
「……父上を止めるには、それしか手がなかったんだ」
混乱する頭の中で、それでも、ピースが一つずつ嵌まっていく。きっとお父様は、叔父様が公に断罪されるのを避けたかったのだ。
だから叔父様をただ没落させ、せめてもの償いとシエルを引き取る事に決めた。そう考えれば、シエルが引き取られるまでの筋道は立つ。
問題はその後だ。何故お父様は、シエルを引き取った後叔父様の跡を引き継ぐような動きをし出したの?
「……これは僕の推測でしかないけど」
悩む私に、躊躇いがちにシエルが続けた。
「叔父上は、脅されたんじゃないかと思う。従わなければ、父上のやろうとした事を公にする。そうアリオン王国側に言われて」
「でも、それじゃ向こうだって」
「懐柔出来ないなら、攻め滅ぼせばいい。……そういう結論を出しかねない連中だよ。アイツらはね」
……何て事。そういう手に出られたら、私のよく知っているお父様なら、確かに従ってしまうだろう。
まさかこのゲームに、こんな裏があったなんて。これじゃ、もし正史通りに総てが進んでたって、きっとエンディング後は……。
「……ごめん、カタリナ」
戦慄する私に、シエルが急に悲しげな顔で謝ってきた。私は何の事か解らずに、真っ直ぐにシエルを見返す。
「どうして謝るの?」
「本当の事を知っていながら、僕は君を脅すような真似をした。叔父上に、本当は非なんてないのに」
言われてみれば、そうだった。私、最初は、正体をバラさないようシエルに脅されていたんだった。
シエルと過ごす毎日が慌ただしくて――楽しくて。そんな事は、とっくに忘れ去ってしまっていた。
「……もしかして、ずっと気にしていたの?」
「……うん」
素直に頷くその姿は、普段の可愛らしさや二人きりの時の男らしさとはまた違う、年頃の少年そのもので。それが何だかおかしくて、私はつい吹き出してしまった。
「……何で笑うの」
「ごめんなさい……貴方もそんな殊勝な事言うんだって思ったら、つい」
「何それ」
シエルには申し訳無いけれど、おかげでスッキリした。向こうの思惑は解った。なら後は……行動あるのみ、よね!
「シエル、私は絶対ディアルマ王子の妻になんかならないわ」
「うん。僕もさせる気はない」
「なら考えましょう、一緒に。何ならジェフリー達も巻き込んで。婚約をブチ壊してこの国も救うには、どうしたらいいか!」
「フフ、君らしくなってきたね」
互いに笑い、見つめ合う私達。不思議ね。シエルとなら、何だって出来そうな気がする。
見てなさい、黒幕。貴方のシナリオ通りには、絶対にさせないわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます