第59話 背後に渦巻く陰謀の匂い
「パーシバル公爵について教えて欲しいぃ?」
次に私が訪れたのは、ヨシュアの元だった。ヨシュアは私の要件を聞くと、途端に怪訝な顔になる。
それも無理はないだろう。何せ他でもないパーシバル公爵の娘が、自分の父親の事を聞きに来たのだから。
「いや、そんなの、僕に聞かなくたって、自分で父親に聞けばいいんじゃないの?」
「お父様は仕事を家庭には持ち込まない人よ。お父様が今どんな立場で、どんな仕事をしているのか、私は殆ど知らないの」
「……」
私の言葉に、ヨシュアは少し考え込むような素振りを見せる。そこに私は、更に畳みかけた。
「何か交換条件があるなら、私に出来る事なら何だって聞くわ。だから……」
「……いや、今回はタダでいい」
するとヨシュアから返ってきたのは意外な返事で。戸惑う私に、ヨシュアは今まで見た事もない真剣な表情で言った。
「正直なところ、パーシバル公爵の今置かれてる状況はうちとも無関係じゃないんだ。いや、無関係な貴族なんてきっと一人もいないだろうね」
「それって……お父様が今進めてる政策の事?」
「そう。さすがにそれは知ってたか」
頷くヨシュアに、私は息を飲む。お父様が進めているのは、そこまで大勢に関わる政策なの?
「ヨシュア……お父様は、パーシバル公爵は一体、何をしようとしているの?」
唾を大きく飲み込みながら、私はヨシュアに問いかける。ヨシュアは一つ小さく息を吐き、眉を寄せながら答えた。
「アリオン王国との和平政策さ」
「!!」
アリオン王国。この国に住む者なら、その存在は皆が知っている。
この国と長い間争ってきた国で、過去に何度も戦争を起こしている。ディアスの国と友好関係になったのも、元を正せばアリオン王国から身を守る為だ。
「公爵は今年に入ってから、急激にアリオン王国との和平を推し進めるようになった。今までも和平の案は出てはいたけど、公爵ほどの大物が和平側についたのはこれが初めてでね」
「お父様は……どうしてそんな事を」
「それがさっぱりなんだ。この僕の情報網をもってしてもね」
長い間争ってきた、アリオン王国との和平。それだけ聞けば、とてもいい事のようにも思える。
でもアリオン王国は今に至るまで、とにかく悪い噂の絶えない国だ。そんな国と、何故お父様は和平なんて……。
「さっきはタダでいいと言ったけど、実は君にやって欲しい事がある」
私が不安に駆られていると、ヨシュアが私を真っ直ぐに見つめて言った。
「公爵の家での行動を監視して、僕に教えて欲しい。と言ってもこれは依頼で、取引じゃない。君には断る権利がある」
「……何故?」
「どうにもきな臭いのさ。この件に関しては、きっと僕個人の利益がどうとか言ってる場合じゃない」
したたかなヨシュアが、そこまで言う。それだけで、ヨシュアはこの件に本気で取り組むつもりだと解った。
「……解った。その依頼、受けるわ」
「ありがとう。……以前ならともかく、今の君はそう言ってくれると思ってた」
珍しい、屈託のないヨシュアの笑みに、私も精一杯の笑みを返してみせた。
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