第57話 現実はゲームと違って甘くない

「うーん……」


 いつものように学園から自宅へ戻り、自室で一人になった私は、唸り声を上げながらベッドに仰向けになった。

 シエルのお家再興の為の協力者は、着々と集まっている。そもそも本来はルートに入った一人しか協力者にならないはずが、紆余曲折を経て攻略対象全員が協力者となったのだから、目標達成はもうすぐそこ……だと思っていた。


 にも関わらず、現在の経過は思わしくない。


 最初私は、協力者さえ集まればお家再興なんてすぐだと思っていた。だってゲームでは、攻略対象と結ばれたら即お家再興だったから。

 ところが現実は、そう甘くはなかった。

 リオンの話では、一度没落した家がお家再興を果たすには、しっかりとした家が後ろ盾になる必要があるらしい。つまり、家そのものを味方につける必要があると。

 そこで今、シエルはつまずいている。と言うのも、これだけ多くの有力な家の子女と繋がりが出来たというのに、シエルの後ろ盾になろうという家は一向に現れないのだ。

 それも、無理もないのかもしれない。今思えばシエルが攻略対象と結ばれお家再興出来たのは、息子の未来の嫁なら後ろ盾になろう、という形だったに違いない。すなわち、どの攻略対象ともただの友達という今の立場は、後ろ盾を引き受けるには軽すぎるのだ。

 攻略対象の誰かと結ばれなければ、お家再興は出来ない。この事実は、私の肩に重くのしかかった。


(……シエルは、今のままでも誰かに後ろ盾になってもらえるよう最善を尽くすと言っているけれど)


 それがほぼ不可能に近い事が、私には解る。だってゲームでは、誰かと結ばれない限りシエルがお家再興を果たす事はないんだもの。

 つまり、お家再興を目指す限り、シエルが男として生きる道はどこにもなくなる――。


(――そもそも、どうしてお父様はシエルの家を没落させたりしたのかしら)


 今まで考えないようにしていた、その事を不意に考える。いくら仲が悪いと言ったって、実の兄弟をわざわざ没落するよう陥れるものなのかしら?

 おかしいと言えば、その後わざわざシエルを引き取ったのもおかしい。それもシエルの方から使用人として通う事を申し出なければ、お父様は私と同じ、貴族待遇で学園に通わせるつもりだったのよ。

 本当に、シエルの父親を陥れたいほど憎んでいたなら……これって少し変なんじゃないの?


(もしかしたら……私は何か重要な事を見落としているのかもしれない)


 まずはディアスに会い、もう一度前世の――ゲームの情報を整理しよう。もしかしたら、何かの糸口が見つかるかもしれない……。

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