第27話 両想いなんてありえない
「……よし。誰もいないわね……」
辺りを念入りに見回り、いつものように校舎裏で待機する。待ち合わせには必ず、私の方が早く着くようにしていた。
別にやましい事は何もしてない筈なんだけど、ヒョウタを待っている間は、誰かに見つかりやしないかと妙にドキドキしてしまう。まぁ、大っぴらに前世がどうのこうのなんて言ったら、頭のおかしい人扱いされるだけだものね……。
(……来た!)
そんな事を考えていると、ヒョウタが校舎の陰からひょっこりと顔を出した。オドオドとしたその様子は、普段の人を寄せ付けない雰囲気とは真逆のものだ。
ヒョウタは私の姿を視界に入れると、パアッと顔を輝かせて小走りでこっちにやってくる。……何だか、人懐っこいドーベルマンにでも懐かれた気分だわ。
「今日も来てくれたんですね、カタリナさん!」
「まぁ、約束だからね」
「昨日は「召しませスイーツ☆ラプソディ」の話の途中で終わったんでしたよね。続きにします? それとも別の?」
そう聞いてくるヒョウタの目は、とてもキラキラしてる。本当に、乙女ゲームが大好きなのね……。
正直なところ私には、ただ前世の知識があるというだけ。乙女ゲームが大好き
でもヒョウタは、転生した今でも乙女ゲームが大好きだ。語り出すと、ずっと止まらなくなるほど。
――それを、少し、羨ましいと思った。
生まれ変わっても変わらない。絶える事ない情熱を持てるもの。
そんなものが私にもあったら、きっと、シエルに相応しく――。
(……ん?)
待って。今、何でシエルが出てきたの?
そりゃ、シエルには絶えず求愛されてるけど。でもそれは一方的で――。
――本当に、そうなの?
――本当に、シエルの想いは一方的なの?
何を……何を考えてるの、私? これじゃまるで……。
「……カタリナさん? どうしたんですか?」
「ひゃっ!?」
不意に近くに聞こえた声に、我に返る。見ると、ヒョウタの顔がすぐ目の前にあった。
ち、近い! この距離はいくら何でも近すぎる!
当のヒョウタは、私の顔を近くで覗き込みながら心配そうな顔をしている。今の距離感を、自覚してないらしい。
「あ、あの、大丈夫だから離れ……」
「……そこの貴方……」
慌ててヒョウタを押し退けようとしたその時、場に、可愛らしいのに凄く低い、そんな声が聞こえた。それを聞いて、私はピシリと凍り付く。
いや、待って。このタイミングで出てこられるのはまず……。
「わたくしのお姉様に……一体何をしてらっしゃいますの……?」
(来ちゃったーーー!)
私の願いも虚しく。
ヒョウタの背中越しに見えたのは、怒りに燃えた瞳で微笑むシエルの姿だった。
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