第24話 前世で繋がる私達

「な、何でその事を……じゃない! じゃなくて……僕、いや、俺は前世なんて知らねえよ!」


 私の指摘に、ディアスが必死で口調を取り繕いながらかぶりを振る。けど余程動揺してるのか、全然取り繕えてない。

 この返答で、確信が持てた。ディアスは転生者……しかも、私と違って前世の影響が強いタイプ!


「……な、何だよ、その目は」


 恐らくは元のディアスを必死に演じているのだろう、ディアスが鋭い目付きで私を睨み付ける。私はそれに臆する事なく、視線を真っ直ぐに合わせて言った。


「ここは乙女ゲーム「成り上がりプリンセス」の世界」

「……っ!」

「私には、その記憶がある。……貴方と同じよ」


 ディアスの目が一転、驚きに見開かれる。……そりゃそうよね。私だってにわかには信じがたいもの。

 自分の他にも前世の記憶を持つ人間がいる。しかも自分と全く同じ、こことは違う世界の記憶。例えるなら、くじ引きで百回連続で当たりを引くようなものよ。


「……前世の、名前は?」


 悩むような、迷うような沈黙が少し流れた後、ディアスが漸く口を開く。その視線はどこか、私に縋っているようにも見えた。

 私の前世の名前。確か……。


桐江きりえアイコ。……日本人よ」

「……!」


 私の答えに、ディアスの顔がみるみると輝いていく。ディアスは興奮気味に立ち上がると、私に駆け寄りガッシリと手を握った。


「わっ……」

「う、嬉しいです! まさか僕と同じ人がいたなんて! あっ、僕、本当は福山ふくやまヒョウタって言うんです!」


 握った手を上下に振りながら、急に早口になるディアス。こ、これって前世の記憶にある、「オタク特有の早口」?


「しかもこの「成り上がりプリンセス」を知ってるなんて、貴女も乙女ゲームが好きなんですね! 僕もなんです! 僕、前世も男だったんですけど、昔から少女漫画や乙女ゲームが大好きで!」

「ち、ちょっと……」

「僕はやっぱり正統派王子様のリオン様推しなんですけど、貴女の推しは? いやぁ、まさかまたこんな風に、乙女ゲームの話が出来る日が来るなんて!」

「ちょっっと待って!」


 放って置くといつまでも喋り続けそうなディアスを、手を下に思いっきり引っ張る事で制止する。ディアスは一瞬キョトンとしたけどすぐに我に返ったようで、あっという間に勢いがしぼんでいった。


「す、すみません……嬉しすぎて、つい……」

「え、ええ、嬉しいのは良く解ったわ……」

「僕、昔からこうなんです……夢中になると、周りが見えなくなると言うか……」


 そう言うと、ディアスは真っ赤になって俯いてしまう。……見た目とあまりにもキャラが違いすぎて、ギャップを通り越して困惑しかないわ……。


「ええと、とりあえず……貴方は「ディアス・クロウ・フェルナンデス」として生きてきた「福山ヒョウタ」って認識でいいのかしら?」


 私の確認に、ディアス……いえヒョウタは小さく頷く。となれば、彼はディアスではないと思って接した方が良さそうね。


「なら他に誰もいない時はヒョウタと呼ぶわね。まず、貴方は「成り上がりプリンセス」をどの程度までクリアした?」

「は、はい、ええと、誰ともくっつかないバッドエンド以外は全部見ました。僕、バッドエンドは苦手なもので……」

「なら殆どの内容は把握してると思っていいわね。……ヒョウタ、今この世界は、貴方の知っているゲームとは違う歴史を辿っているわ」

「え?」


 困惑した表情で、ヒョウタが顔を上げて私を見る。そんなヒョウタに、私は、覚悟を決めて言った。


「教えてあげる。貴方がいない四ヶ月の間に起きた事総て」

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