第22話 ディアスという男
「……」
「……」
教室内に、カツカツというチョークの音だけが響き渡る。普段からこの貴族クラスの授業風景は静かだけど、今日は特に静まり返っている。
原因は解っている。……一番後ろの席にいるディアスだ。
「……」
背後から放たれる、無言の圧力。それはこの場にいる全員を圧倒し、萎縮させている。
平気でいるのは、私とシエルくらい。ミリアムですら、ディアスを見ないようにしている。
「……」
誰もが、ディアスと目を合わせる事を避けている。当然だ。威圧感のあるファッション、鋭い目付き、そして隣国の王太子という立場。
見るからに不良の彼にもし変に目を付けられ不興を買えば、最悪、国際問題にまで発展しかねない。それが怖くて、皆正視すら出来ないのだ。
では、可憐な見た目とは裏腹に神経が図太……もとい、芯の強いシエルはともかく、私が何故平気でいるかと言うと……。
(……ディアスがいわゆる「ギャップ萌えの化身」である事を、前世の記憶で知ってるからなのよね……)
そう、ディアスは見た目は不良だけど本当は真面目で優しいという、乙女ゲームではお約束のギャップ持ちキャラなのである。
(しかもこう見えて可愛いものや甘いものが大好き……そりゃ皆落ちるわ……)
私の前世は男らしい、ワイルドなタイプが好きだったのでジェフリー推しだったけど、人とは往々にしてギャップに弱いものだ。そしてそれは第一印象が悪ければ悪いほど、更に第一印象との差があればあるほど強い好意へと反転する。
ディアスは、まさにそれを体現した存在だ。きっと今頃、本心ではこの沈黙を申し訳無く思っている事だろう。
(まぁ、もう少しクラスが落ち着いたら、お昼にでも誘ってみようかしら……)
ミリアムは怖がるかもしれないけど、同じ王族であるジェフリーならディアスに気後れしたりしないだろうし、ロイドも身分というものを全く気にしないタチだ。もしかしたら、いい友人関係が築けるかもしれない。
それにシエルもこの国の王子だけでなく、隣国の王太子とも繋がりが持てるのだ。お家再興に、また一歩近付くに違いない。
我ながらナイスアイデアだと一人こっそり笑みを浮かべる私。しかしこの、ほんの一時間後――。
私にとって最高最大のイレギュラーが、発覚してしまうのである。
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