第12話 主人公(ヒロイン)からのプロポーズ
「……」
「……」
帰りの馬車の中、私はシエルと無言で見つめ合う。御者は私達が戻ってきたら公爵家の屋敷へ向かうよう事前に言われていたらしく、何も問い質される事はなく、無事に王宮を離れる事が出来た。
「……プッ……」
どのくらい見つめ合っていたのか、やがてほぼ同じタイミングで私達は頬を緩める。そして、外にまで聞こえてしまいそうな大声で一斉に笑い出した。
「フフッ……アハハハハッ! 見た? あのリオンの顔!」
「ウフフフフッ……ええ! わたくし、胸がスカッとしましたわ!」
屈託のない笑顔で笑うシエル。こんなシエルを見るのは、初めての事かもしれない。
「それにしても、どうしようかと思いましたわ。リオン王子をわたくしに夢中にさせてお姉様と別れさせようとしたのに、まさか堂々と二股宣言するなんて!」
「やっぱりそのつもりだったのね。そうじゃないかと思った!」
「アハハッ、でもお陰でリオン王子の器が知れたでしょう?」
「そうね、それに関しては感謝してるわ」
こうしていると、本当に、気心の知れた女同士のよう。……あんまり油断してると、また、何をされるか解らないけど。
「……わたくしがリオン王子の立場だったら」
不意にシエルが笑うのを止め、真剣な顔になる。そして身を乗り出し、私の手を取った。
「好きな人を日陰の立場になんかさせません。何があろうと、必ず守り抜きます。絶対に」
「……っ」
いつになく、力強い瞳。可愛らしい顔立ちはそのままなのに、それが何だか妙に、『男』に見えてしまって。
気が付くと、私はシエルから目を逸らしていた。頬がじんわりと熱を帯びていくのが、自分でも解る。
「待っていて、カタリナ」
「!!」
いつもと違うシエルの口調に、思わず目を見開く。これまでずっと、シエルは女言葉を通してきたのに……。
「僕は絶対家を再興させて、そして男に戻って、貴女を迎えに行く。だから、それまで……絶対に誰のものにもならないで」
「……シエル……」
「今はまだ、女でいなければならないけど……いつか必ず、僕は男に戻ってみせる。貴女の為に」
うるさいくらいに、胸が大きく高鳴っている。どうしたのかしら、私。こんなにドキドキした事なんて、前世の記憶にすらもないのに……。
「……貴方が、それまでずっと私を好きでいてくれるなら考えてあげる」
高まるばかりの動悸とは裏腹に、口を突くのはそんな可愛げのない言葉。自分のこんな性格が、少し嫌になる。
けど、横目で見たシエルは。そんな私の答えに、本当に嬉しそうに笑って。
「フフ……約束だよ、カタリナ」
そう言って、そっと、裏返した掌にキスを落としたのだった。
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