第2話 始まりと崩壊
ピリリリリ………
静かな部屋に目覚まし時計のアラーム音が延々と響く。
「……六時三十分か……起きるか……」
春也には親がいない。まだ幼い頃、春也の両親は不良の事故によりこの世から去ってしまった。
その後、母親の兄、いわゆる叔父さんに育ててもらっていた。
しかし、それも中学まで。 中学からはこれ以上迷惑をかけないためアパートの大家をやりながら暮らしている。これが父の遺した唯一の贈り物だった。
長い間一人暮らしが続いたため、家事全般は得意であった。
「着替える前に顔でも洗うか……」
意識が混沌としている中、本能的に洗面台へと足を運ぶ。
そしていつものように扉を開くと、
「き、きゃあああああ!」
そこにはおそらく大抵の男子なら魅了されるであろう可憐な少女がいた。
手縫いで頭を拭いていたため、身体の隅々まであらわになっていた。先程までシャワーを浴びていたせいで肌に赤みが差していたその身体は、少し細めでいて、胸部もそれとない慎ましいものだった。濡れていることもあって、少し紫がかった黒髪はとても艶やかだった。
俺はそこまで考えてから、
「うわっっっ!」
と、驚嘆の声をあげた。
すると少女はタオルを身体に巻き、
「……いつまで見てる気?」
少女は小さく、けれど深みのある声でそう言った。その少女はタオルを羽織ったまま、見えてしまうのではないかと思うくらいに、ひらひらとたなびかせ、脚をしっかりと腰あたりまで持ち上げた。そして、そのまま勢いを付け、春也の腹部にめり込み、衝撃を与えることになった。
廊下に飛ばされた春也は腹に蹴りを入れられ徐々に意識が遠のいて行く。
「な……んで……」
そのまま気を失ってしまった。
春也が目を覚ますと、真っ先に天井が目に映った。ソファーに横たわっていたのだ。
「やっと起きた」
向かい側の椅子には少女が座っていた。
「……誰……?」
そこにいる少女が誰かわからなかった。
「え? ……もう忘れたの?」
「わからん」
「はぁ……宇宙だよ。守り神の宇宙」
春也はまだ違和感を覚えていた。ふと腹部に感じる少しの痛みに気付いて思い出す。
「あっ! そういえばさっき俺の腹を蹴っただろ!」
「蹴ったけど、それがどうしたの?」
「どうしたじゃない! めっちゃ痛かったんだぞ!」
「えー、でも覗いたのって春也だよね?」
「うっ………」
確かに不本意ながら覗きを働いてしまったのは事実であった。
「でもあれは不可抗力だっただろ!」
「でも覗いた」
「たっ、確かに結果だけ見ればそうなるが……」
「結果だけでもやったことは覗き」
春也ことごとく正論を唱えられ自分の正当性を主張できない。
「とりあえず謝って」
「は? なんで俺がそんな」
「謝って」
「……はい、すみませんでした」
遂に深々と頭を下げる。
「あっ、そうだ春也」
「な、なんでしょうか?」
ちょっとした恐怖心から敬語になってしまった。
「別に敬語じゃなくてもいいんだどさ、お腹すいたんだよね」
色々とムキになっていたので朝食のことをすっかり忘れていた。
「何か作ってよ」
「時間的に無理だから簡単に済ませるぞ」
「わかったー」
ふと春也は疑問に思う。
なぜ宇宙は俺が作ることを前提として頼んでいるのだろうか。
「……ま、いっか。そんなこと考えていてもしょうがないし」
わからないことは考えていても仕方がないと春也は思い、思考を停止する。
春也は隅にある丸いパンを手に取り、おもむろに焼き始める。
オーブンに入れたパンが焼けるのを待ち、焼き終わったのを確認すると皿に乗せ、宇宙の待つリビングへと向かう。
「おーい、宇宙。パン焼けたぞ」
「うん、ありがと」
その顔は満面の笑みだった。
たかがパンで喜びすぎだと、肩をすくめた。
未だに宇宙がどんな存在かわからないので安心はできない。だが、笑顔でパンを頬張る姿に悪意は見えなかった。
そして春也もパンを手に取る。そのパンをかじるとサクっと、いい音がした。
「あー、昨日聞き忘れたんだが、空を飛べるのは当たり前なの?」
「当たり前だけど?」
「そっか……当たり前なのか……」
予想に過ぎないが、おそらくこいつに常識は通じないと、春也は思わざるを得なかった。
「俺はもうそろそろ家を出るけどさ、宇宙はどうすんだ?」
「あ、その事なら大丈夫だよ。私、今日は外せない用事があるから」
「外せない用事って?」
「ふふん、内緒っ」
宇宙はどこか得意げに鼻を鳴らした。
「何時に出るんだ?」
「もう出るよ」
「分かった」
そう言って宇宙はさっさっと仕度をして玄関へと向かった。
「じゃあ行ってくるねー」
「おう」
宇宙がいなくなり、少し肩の荷が下りたような気がした。
気がつくと家を出る時間帯になっていた。俺も仕度をするかと、独り言を呟いた。
支度を終えると、すぐに玄関から出た。
「行ってきまーす」
誰かがいるはずもないのに毎朝と同じように挨拶をする。
春也の通う
歩いておよそ三十分くらいだ。
そうこうしてるうちに学校についた。
春也は二年生なのでニーE
そして、二階にあるクラスに着いた。
クラスのドアに手をかけ、開けながら挨拶の一声をかける。
「おはよー」
「おはよう、春也」
「春くん、おはようございます」
すぐに返事を返してくる人がいる。
数少ない友達である、雅人と亜紀乃。
寺下
神無月
家柄が少々いいので言葉使いが丁寧である。
春也の席は一番後ろの窓から二番目だ。
そして、その左隣は空いている。
前の席に亜紀乃、左斜め前に雅人がいる。
キーンコーンカーンコーン……
「そろそろ朝のホームルームみたいだね、席につこうか」
予鈴が鳴り、雅人に催促され俺と亜紀乃は席に向かった。
そして、俺たちが席に座るとほぼ同時にドアの開く音がした。
ガラガラガラ
「朝のホームルームを始めるぞ」
そこに、趣味はトライアスロンをすることです。と、言っても不思議に思わないくらいに筋肉がついてる担任の杉浦先生が声を上げ、学級委員に指示を出す。
「起立、礼」
学級委員の指示の下に礼をした。
俺は早く終わらないかと、頬杖をつきながら聞き流す。
「えー、このまま終わりたいとこだが今日は転校生の紹介をする」
……は?
春也は聞き覚えのないイベントに動揺を隠せなかった。
「あー、星波。入って来い」
ドアを開け、転校生の少女が入ってくる。
それは見たことのある顔だった。
「星波 宇宙ですよろしくお願いします」
すると、不意に雅人に話しかけられた。
「ねぇ春也、あの転校生――って春也!? 凄い汗だよ!?」
いろんな穴から汗が吹き出ていた。この汗は緊張のあまり出ているのかどうかまでは分からない。
「星波の席は……そうだな、鈴村の隣が空いてるからそこでいいだろ」
そう言われ星波、もとい宇宙は俺の隣に座った。
「よろしくね春也くん」
「よろしく……ハハハ……」
春也の顔は自然と引きつっていた。
楽しい学園生活のはずが……
と、心の中で不安を募らせていた。
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