CHAPTER 04:ロード・トゥ・キル

 薄暗い通路にアルキメディアン・スクリューの唸りが響きわたった。

 ときおり混ざり込む不協和音は、金属が砕ける破壊音、そして乾いた銃声だ。


 アンジェラのヴィルトハーゼを先頭に、”狂った三月兎マーチ・ヘアーズ”のアーマイゼ三機がつづく。

 四機からやや離れて殿軍しんがりを務めるのは、シクロのカヴァレッタである。


 垂直に切り立った壁面を登攀し、ダム内に突入した一行は、そのまま盗賊団との戦闘に突入した。

 圧倒的な戦力を擁する盗賊団だが、操縦技術に関しては凡庸そのものだ。

 それを裏付けるように、ここまでの道中、アンジェラとシクロの二人だけで二十機ちかい敵を撃破している。

 ”狂った三月兎”には一機の脱落もなく、燃料電池フューエル・セルの残量にも相当の余裕がある。

 敵の戦力が四十機前後だとすれば、ミッションはなかばまで達成されたと言ってもいいだろう。


 と、ふいにヴィルトハーゼの右手が上がった。

 爪先のブレーキング・スパイクが床を噛み、激しい火花を散らす。

 やがて全機が停止したのをたしかめて、アンジェラは通信機インカムに語りかける。


「ここからは部隊を分ける。キーラとルクミニは私と、バビリエはシクロといっしょに別ルートを進んでちょうだい」


 ヴィルトハーゼがキーラとルクミニのアーマイゼを伴って動き出そうとしたとき、バビリエが背後から呼び止めた。

 

「待ってくれ、アンジェラ。すでに敵の戦力は半減している。この状況で味方を分散させるのは得策とは思えない。ここは警戒のためにもフォーメーションを維持しながら進むべきだ」

「へえ、戦場で私に意見するの? バビリエ?」

「私を”狂った三月兎マーチ・ヘアーズ”のサブリーダーに任命したのはアンジェラだろう。リーダーの命令に唯々諾々と従うだけでは、副官としての責任を果たしたことにはならない」

「言うねぇー」


 アンジェラはせせら笑うように言うと、ふと真剣な声色でバビリエに問うた。


「ところでバビリエ、さっきまでの戦いでなにか気づいたことはなかった?」

「いや、私にはさっぱり……」

「最初に出てきたアーマイゼは手強かったけど、通路の守りについてた連中はてんでお話にならないド素人よ。撃破したついでにコクピットをこじ開けたら、乗り手ローディはどいつもこいつも青臭いガキばかり――なんて、年齢としのことは私たちも言えた義理じゃないけどさあ」


 アンジェラはくつくつと忍び笑いを洩らす。

 その笑い声の奥にひどく陰惨で冷たいものが見え隠れするのは、あながち思い過ごしではあるまい。


「このさきに敵の本隊がいる。戦闘のイロハもしらないガキどもを時間稼ぎの捨て駒にして、いまごろは大急ぎで迎撃準備を整えているでしょうね。そんな奴らのところに真正面からぞろぞろ突っ込んでいったら、今度はこっちが蜂の巣にされるだけってこと――――おわかり?」


 淀みなく言い切ったアンジェラに、バビリエは返す言葉もない。


 盗賊団の保有するウォーローダーは四十機。

 そのに拘泥するあまり、乗り手ローディのことまでは頭が回っていなかった。


 よくよく考えてみれば当然だ。

 それだけの大所帯で、まさか全員が手練であろうはずがない。

 戦力として期待できるのはせいぜいその半分――それが本来の盗賊団の戦力だ。

 残りは奴隷市場から子供を買い付け、大人たちの弾除けや囮として訓練しているにすぎないのだろう。


 すでに半数を撃破したとはいえ、二十機のウォーローダーとベテランの乗り手ローディはいまなお無傷で残っているのである。

 ここまでの戦いはほんの序の口にすぎず、ミッションはようやくスタートラインに立ったというところなのだ。

 自分の甘さを痛感したバビリエは、ただただ唇を噛むばかりだった。


「分かったら、シクロといっしょにさっさと行きなさい。なにしろ、攻撃を仕掛けるタイミングはまだこっちが握ってる。撹乱しつつ挟み撃ちにすれば、じゅうぶん勝ち目はあるはずよ」


 言い終わるが早いか、アンジェラのヴィルトハーゼは疾走に移っていた。

 キーラとルクミニのアーマイゼも遅れまいとその後に続く。


「私たちも行くぞッ!!」


 みずからを鼓舞するように叫んだバビリエに、シクロはアルキメディアン・スクリューの轟音で応じた。

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