掌編、短編置き場

綾野 

映画館

 どれほど眠っていたのだろうか。

 目覚めると、そこは空席の目立つ映画館。

 隣に座る1人の少年と自分自身以外は誰もいない。


 そんな中、上映されている映画はクライマックスを迎えていた。

 

 青年が道路に飛び出した少年を追いかける。

 

 そして、少年を突き飛ばすのと同時に車に引かれあっけなく落命した。


 これが転生ものの物語だったなら、ここから主人公は神様に出会ってチート武器やスキルをもらって異世界で無双するのだろう。

 だが、この物語はこれで終わり。

 救いも何もないごく一般的な人間の話。


 スタッフロールが流れ終わると、そのままスクリーンから光が失われる。

 暫くの静寂。

 暗闇の中、少年と俺はただただ光を失ったスクリーンを見つめ続けた。


 どれ程の時間が経っただろうか?


 突然、スクリーンに再び映像が投影される。

 投影された映像は、映画館の座席に座り、スクリーンを眺める俺の姿。


 同時に、映画のタイトルが流れる。

 それは俺自身の名前だった。

  

 ……ああ、やはり俺は死んだのだ。

 人生をスクリーンに投影し、映像作品として死人に見せる。

 地獄の沙汰が下る前に白昼夢を見せる場所。


 それこそがこの場所の意義なのだろう。


 なら、そろそろ行かないといけないだろう。

 いつまでもこの場所にいても何も変わりはしないのだから。

 映画館の出口に手をかける。


 「主人公。君は幸せに生きられたかい?」


 そんな言葉を背後からかけられながら。


 「さあ? でも、悪くはなかったよ」


 映画館の外へ足を進めた。



 これは不思議な映画館のお話。

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