怪盗、再び

第104話

 魔術学院日本支部は、比較的懐の広い組織と言える。

 それは前学院長が作り上げた、日本支部のシステムによるところが大きいだろう。普通の高校と変わらない建物や授業内容に、学院祭などの行事。残念ながら、九月に行われる予定だった体育祭は流れてしまったが。


 そこに通う生徒たちも、基本的には普通の学生と変わらない。思春期真っ盛りである彼ら彼女らは、それぞれの青春をそれぞれで楽しんでいる。

 三年生ともなると更に自由極まりないもので、風紀委員が出動するような騒ぎを起こすのは、大抵が三年生たちだ。


 そんな自由すぎる日本支部で、ただ一人。明らかに浮いている者がいた。

 本部から監査にやって来た魔術師、アンナ・キャンベルである。


『また収穫はなしだと⁉︎ なんのために貴様を日本支部へ寄越したのか、分かっているのか!』


 廊下の片隅で、通信越しの怒声が聞こえた。気になってそちらに足を向けた織は、現在級友の二人と昼食をどうしようか検討中だったのだが。


「なんや、けったいな声が聞こえんな」

「ふむ、Ms.キャンベルのようだね。そう言えば、彼女は本部から君たちについて調べに来てるのだったか」

「忘れかけてたわ」

「忘れたんなや」


 隣に侍らせた安倍晴樹とアイザック・クリフォードことアイクも、聞こえてきた声に怪訝そうな目をしている。


『いいか、なにもないならないで、そんなものでっち上げてしまえばいいのだ! こっちは首席議会が二つも空席のままなのだぞ!』

「そ、それは流石に……!」


 あまりにも聞くに堪えない言葉だ。

 織たちが無罪なのは実際に確かなことであり、アンナにはなんの非もないというのに。それをでっち上げるだなんて、彼女の性格上そんなことが出来ないのは、付き合いの浅い織でも理解できる。


『貴様の意見など求めん! 次の定期報告までにどうにかしておかなければ、分かってるのだろうな!』

「分かんねえから教えてくれよ」


 考えるよりも先に、体は動いていた。

 アンナの隣へ歩み寄り、魔術の通信に無理矢理割り込む。隣では目を丸くした女性魔術師が。背後では、友人のため息が聞こえた気がした。

 なにか言いたげなアンナだったが、織は自分の口に人差し指を当てる。


『そ、その声は……』

「あんたがどこの誰だか知らねえけど、あんまり部下を虐めるもんじゃないぜ」

『探偵賢者か……!』


 織が知っている首席議会の人間は二人。

 一人はイギリスで世話になっていたアイクの父親、ロイ・クリフォードだ。そしてもう一人は、実際に敵対し、しかしたしかな信念を持っていたセルゲイ・プロトニコフ。

 通信の向こうにいる男よりも、よほど筋の通った人間だった。


「こんなのが上司だと、アンナさんも大変だな。まだセルゲイの方が良かったぜ」

『どういう意味だ?』

「わかんねぇか? 狡い手使わねえで、喧嘩売るなら正面から来いって言ってんだよ。いつでも相手してやるからさ」

『くっ……! 覚えていろよ探偵! ただでは済まさんぞ!』


 まさしく負け犬の捨て台詞を最後に、通信が途切れた。あまりにもテンプレすぎて、笑いが込み上げてくる。


「アホかお前は! なに首席議会相手に喧嘩売っとんねん!」

「いだっ! 仕方ねえだろ我慢できなかったんだから!」


 駆け寄ってきた晴樹に、思いっきり頭を叩かれた。だが対照的に、アイクはどこか満足げな顔をしている。


「それでこそだMr.桐生! 友人として俺も鼻が高い!」

「お、分かってくれるかアイク」

「勿論だとも! あのような醜悪な輩には、決して屈してはならぬのだよ!」

「せやからってやりすぎや言うてんねん」


 晴樹も完全に否定はできないからか、もはやため息混じりにそう言うだけだ。

 分かってくれたなら結構。織も愛美も、あの頃はこうやって多方面に喧嘩を売りながら、日々を過ごして来たのだ。


 正直、魔術学院のトップである首席議会は、さほど脅威ではない。ネザーやグレイに利用されるだけ利用され、見事にしてやられた結果となっている。しかもその上、自分たちがなにをしたのかまだ理解できていない様子。

 取るに足らない相手、とはこのことだ。


「あの……」


 不意に、制服の袖を引かれた。

 普段はバリバリに仕事ができるスーツ姿の女性、と言ったイメージなのだが、今は完全に小動物然としたアンナ。

 妙に庇護欲を駆られる彼女は、俯きがちに礼を言う。


「ありがとうございます……助かりました」

「いや、いいよ。むしろ勝手に口出しして悪かった。これであんたの立場が危うくなったりしたら、間違いなく俺のせいだしな」

「いえ、そんなことは……! 正直私も、困ってましたから」


 愛想笑いを浮かべるアンナの顔には、僅かながら疲労が見て取れる。慣れない環境に、上司からは先ほどのような通信。おまけに二週間ほど前には、黒龍の騒ぎがあったりしたのだ。疲れるのも無理はないだろう。


「よし。アンナさん、これから時間あるか?」

「え、ええ。大丈夫ですけど」

「なら一緒に昼飯どうだ? 美味いラーメン屋に連れてってやるよ」

「おい桐生、勝手に決めとんちゃうぞ。今日は俺の決めた店行くって話やろ」

「待ちたまえ二人とも。ラーメンではなくうどんの気分だと、先ほど伝えたはずだが?」


 やいのやいのと言い合う男三人。

 そんな様子を見て、アンナは可笑しそうに笑みをこぼした。

 そうやって笑うと美人だなぁ、なんて。なんとなく思う織であった。



 ◆



「へえ、じゃあアンナさんの家って、結構有名なとこなんだな」

「はい。キャンベル家は代々、学院の監査委員を担ってきたんです。研究内容のせいか、扱う魔術も多岐に渡ります。……あの、本当にこんな場所でこんな話をして大丈夫なんでしょうか?」


 場所は変わって、棗市の駅近にあるラーメン屋。結局じゃんけんで買った織が店を決め、晴樹とアイクも伴ってやって来たのだが。

 とてもそんな場所でしていい話ではない。周りはみんな一般人。その中には、魔術師と呼ばれる人間を毛嫌いしている人だっているだろうに。

 まあ、店の中には織たちも含め、二組しか客はいないのだが。


「かまへんで別に。どうせ桐生が認識阻害しとるからな」

「そういうこと。全く別の話してるようにしか聞こえてないだろうからな」


 そんな四人が座るテーブル席には、ギタギタの脂っこいラーメンが二つと、あっさり醤油ラーメンが二つ。

 織と晴樹が前者で、アンナとアイクの外国人組が後者だ。


 あまりにも脂っこすぎるラーメンを見て絶句していたアンナだが、どうやら気にしないようにしたらしい。


「Ms.キャンベルと俺の親父殿も、交流があったはずだ。キャンベル家の前当主は、次の首席議会に一番近いと言われていたのだよ」

「そういや、アイクの親父さんらはどないしとんねん。桐生と一緒にこっち来とるんやろ?」

「先生が用意した屋敷に住んでるよ。今度愛美と一緒に、顔見せに行かないとだ」


 ごちそうさま、と手を合わせ、織は箸を置く。それから少しの間を置いて、晴樹とアイクも食べ終わった。

 アンナが急いで食べようとするが、織は苦笑気味にそれを制する。


「別に急がなくてもいいぞ。ゆっくり食べればいい」

「す、すみません……」


 湯気でメガネを曇らせながら、ハフハフと熱そうに食べるアンナ。ひょっとして猫舌なのだろうか。

 そんな様もまるで小動物で、普段の美人な様子とはギャップがある。

 実は日本支部の男子生徒から、その辺が理由で結構人気を集めてるらしいと聞いている織だが、恐らく本人は知らないことだろう。


 その後も談笑しながらアンナが食べ終えるのを待っていると、店の扉が開いた。


「おう、いらっしゃい愛美ちゃん!」


 知り合いの店主の声に入り口へ首を巡らせると、そこには先日から持つようになった刀を背負った愛美が。


「こんにちは店長。でもごめんなさい、今日は食べて行かないの」

「なんだ珍しい。いつものやつ、用意できてるぞ?」

「織を呼びに来ただけだから」


 てくてくと歩み寄って来た愛美は、アンナを見て意外そうな目をする。


「なにこれ、どういう組み合わせ?」

「桐生がキャンベルさんも誘ったんや」

「Ms.桐原、あなたも一緒にどうだろう! さあ、俺の隣が空いているぞ!」

「狭いから詰めてくんなやアイク! どう見ても三人は無理やろ!」


 通路側に座っているアイクが晴樹の方へと寄るが、どう考えても三人は無理である。仮にいけたとしても、愛美は座らないだろうが。


「仕事か?」

「そんなとこ。でもまあ、丁度いいかもね。キャンベルさん、あなたも付いて来て」


 愛美から名指しされたアンナは、まるでパスタでも食べるように蓮華へ麺を乗せ、目を丸くしていた。


「怪盗どもから、予告状が届いたわ」



 ◆



 アンナがラーメンを食べ終えるのを待ってから、織は晴樹とアイクと別れて事務所へ戻ってきた。

 そこで待っていたのは朱音とアーサー、そしてなぜか、学院長である蒼の姿も。


「なんで先生が?」

「こっちに予告状が届いたからだよ」


 蒼とは先日、亡裏の里で聞いたことを報告して以来会っていなかった。だから四日ぶりくらいだろうか。日本に帰って来てからしばらくは、毎日顔を合わしていた気もするが。


「で、予告状ってのは?」

「これだよ、父さん」


 朱音が差し出して来た紙を受け取る。

 そこに書かれていたのはこうだ。


 本日夜九時より、東京で開催されているオリュンポス展覧会にて、アイギスの盾を頂戴しに参上する。

 防ぎたくば、探偵を雇うことだ。


「オリュンポス展覧会?」


 初耳の言葉に、織は思わず首を傾げる。東京でそんなものが催されていたとは。怪盗が狙うくらいなのだから、またどうせ学院も絡んでいるのだろうが。


「オリュンポス十二神に関する展覧会だよ、その名の通りね。お察しの通り、もちろん学院だって絡んでる。資金集めの一環さ」

「そこに怪盗が来るってわけか」


 そして狙われているのは、アイギスの盾と呼ばれるもの。

 織もその名前くらいは聞いたことがある。都市の守護神として名高いアテナが、父ゼウスより授かったとされる盾。


 エクスカリバーだって実物があるくらいなのだ。別にアイギスの盾も本物があったところで驚かないが。


「で、なんでまたアンナさんまで?」

「現場で指揮してるのが、本部の人間なのよ。だったら同じ本部のアンナさんがいた方が、なにかと都合もいいでしょう」

「なるほど」


 織と愛美は、半ばお尋ね者に近い状態だ。

 本部の人間かいる場所に二人で行ったところで門前払い、下手すればその場で取り押さえられるかもしれない。

 その点、こちらの事情にまだ理解のあるアンナがいれば、場を取りなしてくれるだろう。


 さて問題は、誰を連れて行くかだ。

 前回、安倍家で怪盗と相対した時は、見事にしてやられた。もちろんあの時より、織も愛美も強くなっているが。一筋縄で行くわけがない。こちらが強くなったように、向こうだってその可能性はあるのだから。


「ごめんね父さん。私、葵さんたちと別件で仕事があるんだ」

「あー、まあそれは仕方ないな」

「となると、蓮とカゲロウも無理でしょうね」


 残る候補といえば緋桜辺りだが、彼も先日の亡裏の里での一件があって以来、あまり姿を見ていない。彼も彼で忙しくしているのだろう。

 さすがにアーサーを連れて行くわけにもいかないし、さてどうしたものか。


「先生と有澄さんは、まあ忙しいよな」

「こう見えてね」

「仕方ないわね。今回は私たちだけで行きましょう」


 そうするしかなさそうだ。晴樹やアイクに声をかけても良かったのだが、失礼ながら彼らが織たちの戦闘について来れるとは思えない。晴樹なんて、本来は直接戦闘するタイプの魔術師ではないのだし。


「もし戦闘になったら、アンナさんは下がってていいからな」

「いえ、さすがにそういうわけにはいきません。私も十分戦えます」

「つってもな……」


 織の脳裏によぎるのは、前回の戦闘だ。

 怪盗の使う魔障EMPは、かなりの脅威となる。賢者の石を宿し、位相の力を使える織と愛美はともかく。ただの魔術師であるアンナに、あれを耐えられるとは思えない。


 前回だって、織たちは十分に戦えると思っていた。なんとか退けられると、慢心にも似たものを持っていた。

 その結果があの惨状。魔障の影響でろくに魔術は使えず、みすみす逃してしまった。

 おまけにあの魔導具は、あれから進化してるのだ。愛美なんて命の危機に瀕したほど。


 心配になる織とは違い、愛美は随分あっけらかんとしたもので。


「いいじゃない。戦えるっていうならお願いするわ。もしもの時は、私が守ってあげる」


 ニコリと微笑みかけられたアンナの顔が、なぜか俄かに赤くなる。愛美の人誑しが発動してしまった。

 普通こういうのって、男の方にフラグが立つものじゃないだろうか。いや、立てる気はないけども。


「話は纏まったかな? じゃあよろしく頼むよ」


 最後にそう締めくくって、踵を返す蒼。だが転移する前に織の方へ振り返って。


「ああそれと、織。本部に喧嘩売るのはいいけど、ややこしいことになったら自分でどうにかしなよ」

「聞いてたのかよ……日本支部には迷惑かけないようにしますよ」

「まあ、どうしてもダメだったら、直ぐに頼って来てくれ」


 今度こそ本当に姿を消した蒼。まあ、学院の敷地内だったのだし、彼が把握していて当然だとは思うが。


「あなた、なにしたのよ」

「父さん、また後先考えずにやらかしたの?」


 二人から呆れたように言われ、おまけにアーサーにまでバカにされたような視線を向けられれば、少し凹んでしまう織だった。



 ◆



「最近あいつらがこっちに顔出さない理由、なんとなくわかる気がするわ」


 ため息混じりに突然吐き出されたのは、カゲロウの疲れたような声。

 場所は風紀委員会室。委員長である愛美からは仕事があると連絡を受けているし、織もそれに同行するだろう。朱音はもう少しで来るだろうけど。

 それでもたしかに、最近あの二人はあまりこっちに顔を出さない。事務所の方が忙しいのかと思っていたが、カゲロウの言い方からするに、他の理由があるのだろうか。


 ソファに蓮と並んで座っていた葵は、首を傾げて半吸血鬼の少年を見やった。

 しかし返ってくるのは、二度目のため息。


「おい蓮。お前まで色ボケしてんなよ」

「色ボケって……そんなつもりはないんだけどな……」

「自覚ないのがタチ悪いな……隠すならちゃんと隠せよ」


 さすがの葵も、カゲロウがなんのことを言ってるのか理解した。

 別に蓮と付き合ってることを隠してる、というわけではない。ただ、周りに改まって報告してないだけだ。約二名ほど、煩そうな子と兄がいるから。


 しかしこの感じだと、カゲロウにはバレてる、ということか。ならサーニャや愛美なんかにもバレてるだろうし。織はどうかよく分からないけど、朱音は耳年増な割に以外とこの手の話は鈍感だから、気づいてないかも。

 一番厄介なのは兄だが、なにも言ってこないところを見るに、バレてないと願いたい。


 まあカゲロウからしたら、堂々と手を繋いで座ってて隠すもなにもないだろう、と思っているのだが。葵はそんなこと知る由もない。


「こんにちはー」


 扉を開く音と、聞き慣れた声。咄嗟に蓮と繋いでいた手を離し、やって来た朱音に向き直る。カゲロウは今日三度目のため息を漏らし、隣の蓮からは苦笑が聞こえた。


「こんにちは朱音ちゃん」

「……?」

「ど、どうしたの?」


 訝しげに葵と蓮を見つめてくる朱音。ツーっと汗が頬を伝う。

 まさかバレた? いや、別にバレてまずいことはないし、疚しいことをしてるわけじゃないけど。


「師匠と葵さん、今日も仲良しですね」

「ま、まあ、ね……?」


 うんうん、と笑顔の朱音。なんだったんだ今のは。そりゃまあ、蓮とは前から仲良しだし、それは朱音も知ってることだし。最近さらに仲良しなのは自覚してる上に事実ではあるけど。


 変なむず痒さを感じていると、蓮から助け舟が。


「全員揃ったし、早速今回の仕事内容を確認しておこうか」

「あ、うん。そうだね」

「はい」

「よっしゃ」


 朱音もソファに腰を下ろして、四人がテーブルを囲むように座る。そのテーブルの上には、今回の仕事内容が書かれた依頼書が置かれていた。


「今回は、かなり強大な魔物が発見された。今まで学院に出回ってた魔物討伐の何倍も難易度が高い」

「その魔物というのは?」

「亀だよ」

「は? 亀?」


 間の抜けた声のカゲロウ。朱音も首を傾げている。どうやら、二人が予想していたものとは大分違うらしい。


「亀ってお前、あの亀か?」

「そう、あの亀。玄武って呼ばれる聖獣は知ってる?」

「話は聞いたことありますが」


 中国に伝わる四神の一柱。玄武。

 朱雀、白虎、青龍などと並んで語られる神であり、聖獣である。

「玄」は黒を、「武」は武神としての神性を表しており、中国における黒とは、北方や水を司ると言われている。

 なによりの特徴は、その不死性だろう。

 あの国での亀は、長寿と不死の象徴とされているのだ。


「まさか、その玄武そのものが相手だってのか?」

「いえ、そんなわけありませんが」


 亀とは言え、神には違いない。亡裏の里で葵たちが聞いた話は、当然カゲロウと蓮にも共有している。

 他の誰でもない、キリの人間の手によって、神はこの世界から姿を消したのだ。


 ならば今回相手をする魔物の正体は。


「推測だけど、亀の魔物が外的要因によって、玄武としての象徴を埋め込まれた、ってところじゃないかな」

「うん、葵の言う通り。神様っていうのは信仰がないと生きていけない。でも逆に、それさえあれば全く別の魔物を神に仕立て上げることができる」


 思い返されるのは、以前剣崎龍と向かった、とある集落での仕事。

 あの集落で、敵の魔術師はカゲロウに信仰を集め、神に仕立て上げていた。


 当時こそ理解できなかったものの、今となってはその理由もわかる。

 ネザーが、カゲロウの力を更に引き出そうとしていたのだ。その結果、先日の黒龍との戦いでカゲロウは、見事神氣を自在に操っていた。


「そいつを討伐しろ、ってわけか。他の情報は?」

「場所は青森の山の中。大体しか分かってないんだ。あとは、そうだな……とにかくデカい、ってことかな」

「それは、体が、ということですか?」

「そう、体が。下手したら、この前の黒龍よりも」


 うへぇ、と露骨に嫌な顔をする朱音。

 葵だって同じ顔をしたい。図体の大きな相手は、とにかく戦いにくいのだ。ガルーダしかり、先日の黒龍しかり。


「段取りとしては、葵のインドラとカゲロウのヴァルナをメインにして、俺と朱音は適宜サポート、みたいな感じかな。それでもダメそうなら、朱音のドレスと俺たちのエクスカリバーでどうにかする」

「最終的に力押しってわけか。シンプルでいいじゃねえか」


 神氣に位相、特殊な異能と聖剣の火力。こちらの手札は申し分ない。よほどの相手でない限り、負けることなんてあり得ないだろう。

 自分たちは、それだけの力があると自負している。


「それから可能なら、その亀を玄武へと変えた術者の確保、だな」

「その辺は私に任せてよ。情報見れば一発だからさ」

「決まりですね。サクッと終わらせちゃいましょう」


 だから、この時は思いもしなかった。

 まさかあんなやつが相手になるなんて。

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