第1章 (1)女神降臨
高層ビルが乱立する大都会。行き交う無数の人々に襲いかかる天変地異。各地で大災害が勃発する中において、逃げ惑う人々をあざ笑うかの如く、
栃◯県の田舎町で雨に打たれながら「いやぁ〜!!!」と、ひとり泣き叫ぶ美少女・
時は春、栃◯を代表する霊峰・◯体山の山頂では豪雨と稲光と共に雷鳴が
私の名前は大神結子。現在高2の女子高生。苦手なものは汚いものと人混み。悩みは物心がついた時から人には見えない幽霊が見えること。そんな私が何の因果か、今は女優しています。
「カット!」
撮影をストップする監督の声が空間に響き渡ると、張り詰めた空間と一点に集中していたスタッフたちの意識が解放された。
緊張のあまりNGを連発する新人女優で映画初主演の結子は、「すみません、本当にすみません」とスタッフたちに平謝りしている。
「一旦、休憩入りま〜す!」
雷鳴と共に猛烈な雨が降り始めたことにより運よく撮影は一時中断され、雨待ちの休憩に入ったことを受け結子はホッと溜め息をついた。
豪雨と稲光が続き、遂には◯体山の山頂に
時を同じくして、映画撮影現場で待機中の結子に異変が生じた。落雷と同時に女神が降臨して、女子高生である結子に憑依したのである。
女神の降臨によって爽やかな気が結子の肉体から一気に放出され、周囲は清々しい気に満ち満ちた状態になったと同時に、結子の双眸が蒼く煌めいた。結子が手にする映画台本のタイトルは「愛しい人は、女神さま」である。そして、主演女優である結子の役柄は、奇しくも女神が降臨した姫の役なのであった。
「えっ、何これ・・・」
女神の想いが自分の感情に直接入って来る不思議な感覚の結子は、鏡で自分の顔を見つめ、手足を動かし、慣れない人体に驚くばかりである。
人体を持つ人間の結子であって、肉体を持たない女神であり、女神であって結子であるという突然訪れた状況に結子は戸惑いを隠せない。
撮影現場では、田舎町での映画撮影ということ、またこの日は週末ということも相俟って見学する人たちが大勢いた。そんな中、目の前の虫に驚きあたふたしながらも群衆をかき分けて撮影を見学する男子高校生がいた。朝日朋友である。
誰もが結子の異変に気づかぬまま、雨は上がり撮影は再開された。
「どうしよう、上手くできるかなぁ」
緊張と不安な気持ちが収まることもなく、大人たちに囲まれた現場での現実に
「大丈夫」
「えっ、大丈夫って・・・」
女神の声を聞く結子は、何が起こっているのか理解できていないものの、なぜかしら心は落ち着いて穏やかでいて温かく、清らかで優しい気に包まれていることが心地よい。
姫が巫女(斎王)として、神様からのご神託を伝えるシーンの撮影が再開されるとき、結子の双眸が再び蒼く煌めいた。
「心願成就するには、素直で清らかな心、穢れのない体、そして、静かに手を合わせ、本気で神様に祈ることです」
「カット!」と甲高い監督の声。
「いいね、結子ちゃん、最高の演技だよ!」
雨待ち前とは別人のような完璧な女神役の演技に、監督をはじめ、その場のスタッフ全員が大絶賛した。
其れもその筈、さすがは本物の女神である。
清らかな気を放つ結子は戸惑いながらも頭をさげ、笑顔で「ありがとうございます! ありがとうございます!」とスタッフたちに礼をした。
撮影現場でひとり佇む結子は、自分じゃない自分に戸惑いながら声の主に尋ねた。
「あなたは誰ですか?」
「神です、あなたの力になります」
鏡で自分の顔を冷静に見つめる結子。
「えっ、私は誰?っていうか、この声は誰なの?」
「幻聴? 私って、病気?っていうか、やばいんだけど・・・」
結子は自分が病気になったのか、頭がおかしくなったのか、何が現実で何が非現実なのか、自らの身体感覚に疑いを持つのである。そのことを以て、自分は正常であると後の結子であれば直ぐに判断できるのだが、今の結子にとっては何もかもが初体験! 結子としては
そんな結子は、幼少の頃から幽霊が見え、それは現在も変わることがない。
「お母さん、あそこに男の子がいるよ」
「どこに?」
「ほら、手を振ってるよ」
近所の公園で未成仏な子どもの幽霊が結子に手を振るので、手を振り替えして微笑む幼い頃の結子。
幼い頃から清らかで愛らしく、いつも溢れる笑顔で誰にでも明るい耀きを与える結子は、どこにいても周囲からの注目を集める美少女であり、そんな結子が歩みを進めると誰しもが振り返って結子に視線を送っていた。
そんな結子を東京の芸能プロダクションのスカウトマンが見逃す訳がない。
「ちょっと、お話いいですか?」
「は、はい・・・」
「こう言うものですけれど」
芸能プロダクションの名刺を差し出すスカウトマンは、典型的な美少女である結子に声をかける。多数の競合他社を押さえて、大手芸能事務所が結子の専属契約を勝ち取るのであった。
結子にしてみれば青天の霹靂であったものの、少しでも自分のために毎日パートに出かけるお母さんのために自分ができることをしたいという想いから引き受けた芸能活動。気の悪い人混みや大都会は苦手で本当であれば最も避けたい環境であるにも関わらず、何かに導かれるように引き受け、流れに身を任せるのだった。
結子が高2になる年の初春、鏡子が若い頃に暮らしていたことがあった栃◯県に移り住むことになった。
「結子、この荷物、台所に運んでくれる?」
「うん、わかった」
そして、新しく通うことになった学校での新学期が始まるときには、結子に映画主演の仕事が舞い込むのである。
「結子、おめでとう! 映画の主演が決まったよ!」
「は、はい、ありがとうございます」
「これが足◯市の歴史資料、詳しく書いてあるから家でしっかり読んでおいてね」
「はい」
「結構なシーン数、結子が暮らしている栃◯県内に撮影場所も変更してもらったんだから、気合い入れて行くよ!」
「はい、頑張ります!」
結子が所属する芸能事務所は、結子が栃◯県の田舎町に転校することになったことに合わせて、撮影のスケジュールや場所を県内で調整するように制作スタッフに申し入れ、結子のサポートをする熱の入れようである。
事務所の会議室でマネージャーから『下◯国が生んだ足◯氏』(下◯新聞社)などを受け取った結子・・・初主演映画の撮影と学業を両立させながらの生活が幕を開けたのであった。
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