第98話 幻妖の呟き


 何一つない白い世界が広がっている。

 そんな白い世界の中に二人の男女が居た。

 タルキンのガスカルドとルマリオネである。

 ガスカルドは腕組みしてうんうん唸っており、ルマリオネは鏡を見ている。


「あなた……どうします?」

「ふ~む……」


 ルマリオネの言葉に思案顔のガスカルド。


「久しぶりじゃからなぁ……友達になれというのは……」

「普通は子供が言うセリフですからねぇ……」


 少しだけ嬉しそうなルマリオネ。


「前の時は誰だったか……」

「ビータ君ですね」

「おお、そうじゃ。親に捨てられて山で泣いてた男の子じゃな」

「確かあの時は遊んであげたんですね」

「そうじゃな。ゲームをクリアするごとに、ご褒美をあげたのぅ。凄くよろこんでおった。あの子はどうなったんじゃ?」

「もう死んでますよ……何百年も前ですから」

「それもそうか」


 少し残念そうに顔を俯かせるガスカルド。


「ふむ……じゃあ、今回もそうするか」

「そうですね……ってあら?」

「どうした?」


 ルマリオネが見ている鏡を指さす。

 鏡の中では激しい戦いが繰り広げられている。


「あの子はこれから激しい戦に行かなければならないみたいですね……」


 鏡の中では宇宙空間での激しい戦いが繰り広げられている。

 恐ろしく激しい戦で辺り一面に光が瞬き続ける。

 ガスカルドはこれを見て眉を顰める。


「……これはまた……恐ろしい戦じゃな……」

……」

「今の人類がこんな戦をしたことなどあったか?」


 したことなどない。しかもルマリオネが言っているのはである。

 ニューガン皇国ですらこれだけの軍勢は持ち合わせていない。

 普通、兵隊は人口に対して1%が平常時。戦争中は5%、異常事態で20%になっている。

 しかもその全員が戦場に行っているわけではないのだ。

 本国警備の者や補給担当の者。

 色んな人間がおり、全員が最前線にいるわけではない。

 なのにこのありさまである。


「古今未曾有の極大会戦か……こんなものに巻き込まれるのか……」


 困り顔のガスカルド。

 だが、ルマリオネはニコニコ笑う。


「しかし、約束してしまいましたからねぇ~」

「そうじゃな。友達になると約束したからのぅ~……」


 同じようにニコニコ笑うガスカルド。


「助けんといかんな……」

「そうですねぇ……」


 ニコニコと二人で笑う。

 すると後ろの空間を急に歪んで一人の女性が現れた。


「上手く行ったようね」


 運命神トリニアが現れたのだ。


「おお! トリニア殿! 見ての通り彼を助けましたぞ!」

「助かったわ。彼を殺されると大変だから。ありがとう」


 お礼を言うトリニアだが、ルマリオネは渋い顔だ。


「トリニア………ひょっとしてこの極大会戦はあなたが仕組んだの?」

「正確には私とメリルね。既に何回もやり合っているのよ?」

「そうなの………」


 悲しそうに俯くルマリオネ。


「仕方ないじゃない。『ノード』は人の運命を歪める存在。放置するわけにはいかないわ」

「………ノードが関わっておるのか?」


 ガスカルドが渋面になるのだが、メリルが平然と答える。


「ええ。それも歴史上類を見ないレベルで運命を歪めるノードが向こうに居るのよ」

「それでは仕方ないな」

「仕方ないのよ」

 

 困り顔になる三人。

 トリニアは言った。


「私は他にもやることがあるから……圭人は守ってあげて」

「承知した」

「じゃあまたね」


 再び空間がぐにゃりと歪んでトリニアは消える。

 ガスカルドは深いため息をついた。


「さて、準備するか……」

「ええ……」


 夫婦が二人そろって立ち上がる。そして白い世界に溶けるように消えていった。

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