第74話 廃墟探検

 圭人達が奥に進むとエントランスに繋がった。

 往年はいろんな人でにぎわったであろうエントランスは誰一人としておらず、がらんと寒々しいものがあった。


「ここは広いからここを中心に探検するといいと思う。あそこに地図もあるし」


 そう言ってアイナはボロボロの椅子をパンパンして埃を払ってから座る。


「詳しいっすね」

「子供の頃はまだ営業してて遊びに来てたから。あたしが高等部に入るころに潰れたんだよ」

「私もよく遊びに来たな」


 懐かしそうに言うアイナとハーマ。


「そう言えばあそこのアイスをよく食べてたね……」


 心なしか少しだけ元気が戻るイナミ。

 いい思い出があるところだからだろうか? 前のホテルに比べて心なしか落ち着いている。


「イナミはあそこのプルマ味が好きだったね」

「あ、それ私も好きでした」


 エルメスの言葉にイシュタも同意する。ちなみにプルマとはブルーベリーみたいな味である。


(知ってる分、怖さが薄れるのか……)


 苦笑する圭人。テレビで怪奇特集が無くなったのもこれが理由である。

 ネットでネタバレされてしまうので怖さが半減するのだ。

 恐怖は余計な想像から生まれる証左でもある。


「・・・・・・・」


 比較的和気藹々とした空気の中、ティカだけが無言だった。というよりも圭人の方を睨んでる。


(……なんで? )


 何かしたかな? と圭人は訝しがる。すると圭人の後ろにいるアイナが声を上げる。


「みんなどうする?」

「ふーむ……どうせなら今まで行きたくてもいけなかったところに行ってみたいな。従業員スペースとか……」

「どうせなら前みたいにチームを組みません?」

「そうだね」

「そうしようか」


 エルメスとイナミが同意する。


「じゃあ、前と同じチームを分け「じゃんけんがいい」……」


 アイナが言おうとしたことをティカが口を挟んで黙らせる。

 アイナが少しだけムッとしてティカを睨む。


「ま、まあじゃんけんでいいんじゃないかな? 見たところそれほど危険なわけでもなさそうだし」


 そう言ってちょっとだけ険悪になった雰囲気をごまかす圭人。


(ティカどうしたんだろ? )


 不思議そうな圭人。アイナの睨みにティカの方も受けて立つと言わんばかりに睨み返している。


「じゃあ、じゃんけんにしようか」


 ハーマもそう言ってじゃんけんになった。


「2じゃんでいいな? 」


 こちらのじゃんけんには2~5のじゃんけんがあり、普通、じゃんけんと言えば五じゃんを指す。

 5すくみを使ったもので弱点は人数が多いと決まりにくい。

 一方で2と4のじゃんけんはチーム分けが多く、グッパやグーキーなどの地方ルールが多いあれである。


「装備があるから1と2でやろう。レイはイシュタのチームに入ってくれ」

「はいはい」


 ハーマの言葉にレイが答える。ハーマは右手を出すと全員がそれに倣う。


「あの子の中に♪ 入りたい♪ 」


(もうちょいましな掛け声がねぇんか……)


 苦笑して1を出す圭人。ちなみに意味は「好きな子のチームに入りたい」という意味だ。

 日本語に直訳するとどうしてもこうなる。三回やって以下のように決まる。


ハーマ:圭人、アイナ、エルメス

イシュタ:レイ、イナミ、ティカ


「まあ、妥当なところだろう」


 ハーマは満足げに答える。他もまあ、こんなもんだろうと思っていると……


「・・・・・・・・」


 ティカだけが無言の抗議をしていた。


(本当、どうしたんだろう? )


 ティカの不機嫌の理由が分からない圭人。じろーっとこちらの方に睨んでいる。


(なんかやったかなぁ……)


 圭人は考えているが特に何も思い至らない。実際、今日の昼まではいつも通りだった。


「じゃあ、私は東側から始めよう。イシュタは西側から始めてくれ」

「うぃっす! 」


 そう言って分かれて動き始める。ティカは最後までこちらの方を睨んでいた。



用語説明


 じゃんけん


 手が3~5種類の勝負決めタイプと手が2~4のチーム決めタイプがある。

 それぞれ手数2は2じゃん。手数3は3じゃんと呼ぶ。


 廃屋探検


 この世界でもあるが、基本は私有地に勝手に入るのは違法です。

 その辺の山にも所有者は居ますから勝手に入るのは犯罪ですのでやってはいけません。

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