第63話 狂う男
『この前は恥をかかされたんでな。やり返しに来たんだよ……』
そう言って男は持っていた銃をこちらに構えた!
「ケート君!」
ドゴゴゴッ!
アイナが圭人の腕を引っ張るのと同時に、それまで居た空間に重いものが通り過ぎる!
「ちょっ! 冗談だろ!」
バルドー部はバディルを着けた演習競技で銃弾は泡弾という物を使う。
スカスカの内部が空洞の弾でバディルを着けている限り貫通することはない。
だが、それはあくまでバディルを身に着ければの話だ。
普通の人間の体は簡単に貫通する。
『ちょうどいいことに廃ホテルだからな………ぶっ殺してやる!』
殺気だった男の声が聞こえると同時に銃声が響く!
ドゴゴゴッ!
ついさっきまでケート達が居た場所の壁に穴が開く。
「なんてことを!」
アイナはケートの腕を引っ張って裏の楽屋らしき部屋に隠れる。
ドガガガガッ!
前の壁に弾が当たったものの、軽く凹むだけで貫通するには至らない。
当たった素材にもよりけりだが、貫通しにくいからこそ演習に使われるのだ。
「逃がさねぇよ! 」
男がそう言うと背中のスラスターがバシュっと噴き出すと一息で十m近い距離を飛ぶ。
そして男が物陰に隠れた二人を撃とうと回り込み………その目を見開いた!
『なに!』
隠れる場所など一つもないのに二人の姿を見失う。
廊下ほどの広さの細長い部屋があるだけで他に何もない。
窓際に板が何枚か立てかけられているがとても二人が隠れられるスペースは無い。
『どこ行きやがった!』
慌てて広間に戻るも二人はいない。
忽然と姿を消してしまった。
『くそ!』
男はそう言ってもう一度楽屋に行くもやはり二人はいない。
男は広間をウロチョロし始めたが、見つからないので階段の方に向かっていく。
音が遠ざかるのを確認して圭人は少しだけ深呼吸する。
「危なかったですね……」
「今も十分危ないけどね……」
二人で少しだけ安堵する。
二人は窓枠に足をかけて窓の外に宙ぶらりんで居た。
二人は仕切り板の取っ手を掴んで窓枠の狭いスペースを上手く使ってギリギリ落ちないでいる。
こうすると建物の内側からは仕切り板が窓に立て掛けられているようにしか見えない。
仕切り板はかなり頑丈にできていて人二人の体重を受けても壊れてる様子はない。
楽屋裏で窓が小さく不均等に付いていたのも誤魔化しやすかった
アイナがほっと溜息を吐く。
「しかし、よく思いついたわね。こんなのあっても普通は思いつかないわよ」
「いやぁ……まぁ……」
感心するアイナと歯切れ悪く答える圭人。
実は英吾の悪戯に手伝った際に同じ方法で隠れたのだ。
もっとも、その時は英吾の取っ手だけ取れて二階から落ち、彼だけ痛い目に遭っていたのだが。
(ちょうど、あの時の取っ手によく似てるなって思ったのがこんな形で役に立つとは!)
悪戯も時には役に立つと喜ぶ圭人だが、危険なことには変わりない。
どうしたものかと考える圭人。
(殴り合いは絶対に勝てんな……)
いくらアイナがクーザ流武術の達人でもバディルを着けた人間に挑むのは自殺行為である。
バディルは単に腕力が強いだけではなく、関節が変な方向に曲がらないように出来ているので関節技などの搦め手にも強いのだ。
(降りるのも無理か……)
4階の高さで下には何やら産廃に近い鉄製のゴミが乱雑に置かれている。
一か八かで飛び下りても死ぬだろう。
うまいこと助かっても痛みに苦しむ彼らを上から撃ってくるので結果は一緒だ。
(助けは……呼べんな)
大声を出せば気付かれるし、何よりも他の仲間まで殺そうとしかねない。
そして何よりも、さきほどの銃声で何事かと考えた二人が上に上がってくる可能性が高い。
(となると残りは一つだな……)
圭人は覚悟を決めてアイナに声をかける。
「アイナさん」
「なに?」
「僕の体を伝って下の階に降りてくれませんか? 」
そう言うとアイナは目を見開いた。
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