第51話 恐怖体験
「夢診断といってな。夢の内容を映像に変える技術があるのだよ。それによる目撃再現映像だ」
「じゃあ、これは……」
「被験者が実際に見た映像を夢という形にしたものらしい。詳しい仕組は知らんがな」
ハーマの言葉に呆然とする圭人だが、映像に動きがあった。
廊下の奥で何か巨大なものがうねったのだ。
「なんだ? 」
男が少しずつ後ずさるとそのうねったものが徐々に見えてくる。
廊下の光に照らされて、その正体がわかる。
「ヒュークラ! 」
両腕が巨大な蛇になっている犬の頭の怪人だった。
両腕の蛇は太さが電柱ぐらいある。
「ひぃぃぃぃぃ!!!! 」
慌てて後ずさる男。
すると男の後頭部に何か当たる。
「なんだ? こんなところに入り込んじまったのか? 」
気のよさそうな赤ら顔の赤人で頭が胴体と同じぐらいの大きさがある2mぐらいの人間だった。
向こうにいる怪人に比べていくらか友好的に見える。
「ひぎぃ! 」
だが、それを見た男はさらに悲鳴を上げて後ずさる。
「しょうがねぇなぁ……食べてやるからこっちにこい」
邪悪な笑みを浮かべると赤ら顔の男は口を開く。
大人が一人入れそうなでかい口だ。
「ひぎぃああああ!!! 」
ばくん!
先ほどまで男が居た場所が丸々赤ら顔の男の口が収まった。慌てて逃げだす男。
廊下をやみくもに右左と動き回り、ひたすら走り回る!
どん! ガシャン!
すると、何かに当たり転倒した。
「何やってるんですか! 」
すぐそばでナースが怒鳴っていた。
目の前には手術道具らしきものが散乱している。
「ひぎぃぃぃぃぃぃい!!!! 」
さらに男が絶望したように叫び声をあげる。
すると、男の両脇を男たちが取り押さえる。
「おい!お前何やってる!!! 」
「たす……助け……! 」
男は両脇を抱えられて半狂乱になって振りほどこうとするが振りほどけない。
そんな中、一人の男が男の腕を掴む。
「なにやってんだお前! 」
「ホンク……」
ようやく見覚えのある男の顔を見て安堵する男。どうやら友人のようだ。
「ねぇねぇあのお兄ちゃん何やってるの? 」
「さあねぇ……多分怖い人が居るところから来たんじゃないかねぇ……」
遠巻きに親子連れが指さして笑う。そこで男は初めて気づく。
「……病院……」
「そうだよ! お前見舞いに来て何やってんだ! 迷惑かけてんじゃねぇよ!」
ホンクと呼ばれた男が怒鳴る。周りにはいつの間にか喧騒が戻っていた。
普通の昼間の病院で患者やナースが忙しそうに歩き回っている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!! もどったよう!!!!!」
「は? お前何言ってんだ? 」
友達の悪態でビデオが暗転する。そして切れる。
「以上が一番信ぴょう性が高いと言われている映像だ。迷宮の特性が余すことなく出ているので一級資料と言われている」
「う~~む……」
圭人は悩んだ。
(確かに疑わしいけど……俺のあれも大概だからな)
自分の目の前で起きた出来事とは若干違うが、似たようなことが起きているのかもしれない。
「ちなみに続きがあってこちらもシュールだ」
そう言ってハーマが映像を見せる。防犯カメラの映像で男がいきなり消えるシーンから始まって、別の防犯カメラから何もない虚空から飛び出てくるシーンがある。そしてすぐにナースにぶつかった。
「う~ん……」
作ろうと思えば今の地球の技術でも作れる映像だろう。うさん臭さが消えてくれない。
「胡散臭いと思ってるだろう? 」
「ええ」
正直に答える圭人。だが、それを聞いてくすりと笑うハーマ。
「それにしちゃ真剣な顔で見ているな?」
「なにかヒントがないか考えているんです」
真顔で答える圭人。頭の中で考えていることがぐるぐる回る。
(なんでこいつだけ行ったのか? どうしてこいつだけ戻ってきたのか? )
そして、これは本当の映像なのか? そういったことを考えていた。
「どうやら気に入っていただけたようだな。次はこれなんかどうだ? 」
そう言ってハーマが次の事件を教えてくれる。
その日は下校時間ぎりぎりまで、圭人は迷宮について考えていた。
登場人物紹介
ハーマ
超法学研究部の部長で4年生の女ツリマ人。
キュベレイによく似た姿をしている。
尊大な口調を使いたがる。
レイ
白とピンクが基調の男ツリマ人で圭人と同級生。
割と常識的な性格をしているのだがそのせいで影が薄い。
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