第33話 特別な仲間

「あ~眠い」


 そう言って自分の部屋の椅子に座る圭人。

 自室は八畳ほどで、ベッドと机、押し入れとクローゼットと棚があるだけの簡素な部屋だがこれが一般的な子供の個人部屋になる。


 宴会もお開きになり、自分の部屋でくつろぐ圭人。

 机の上には一枚の写真が飾られている。

 病院からこの星までほぼ直行した圭人だが、それでもいくつかのものは持ってきている。

 とはいっても全壊した家から持ってこれる物はたかが知れており、見つかったのはこの一枚の写真だけであった。


 毎年行われる宝満祭りの集合写真で真ん中一番後ろに獅子頭を持った青年団の団長がおり、一番前には刺子を着た子供会の子供たち。

 その後ろには袴を着た町内会のおっちゃんたち。


 そして緑色の法被を着た青年団が後ろにいる。

 その青年団の右端に5人が居た。


 ギニュー特戦隊のポーズを取っており、一目でバカとわかるグループである。


 真ん中のギニューのポーズをとっているのが久世英吾。

 このバカグループのリーダーで一番の馬鹿でもある。


 その隣でグルトのポーズを取った小太りの優しそうな少年が万代刀和。

 勉強もスポーツもダメだが気の優しいグループの癒し系だった。


 ジースのポーズを取っている眼鏡が九曜圭人。

 頭はいいが運動は並みでしかなかった。


 後ろでバータのポーズを取っている大柄な眼鏡は大上悠久(ちかひさ)。

 頭のいい秀才タイプでなんでもそつなくこなす。


 リクームのポーズを取っている強面の黒人ハーフが嘉麻一石。

 一石と書いてアインシュタインと読ませるキラキラネームだが、腕っぷしが強く、理数系に強い少年だった。


 まあ、単純にガタイの関係でこういった配役になっただけで、そういったポジションにいたわけではない。

 ちなみに英吾だけポーズが中途半端なのは顔が切れたので中腰になったからである。

 そのせいで「命」になっている。


 最後にその五人の隣にいる黄八丈の着物を着た三味線持ったショートカットの女の子が玉響瞬だ。

 メンバーの監視役兼面倒係で常に頭を抱えていた。


「・・・・・・・・・・・・」


 写真をじっと見て在りし日の仲間たちを思い出す圭人。

 そしてあの日起きた隕石事件の真実を思い出す。


 世界同時発生隕石事件

 

 2015年の7月15日に世界の八か所を襲った謎の隕石事件。

 同日同時刻に起きたこの隕石事件は世界中の話題になり、ネットでも大きな反響を呼んだ。

 


 その翌月にアメリカ大統領による国連の緊急招集に来た世界各国の首脳が見たのは……


 そしてそこから降り立ったのは紫色の髪を持つ青い肌をした美女で見たこともない美しい服を着ていた。

 そして、彼女は悠々と国連本部に入り、流暢な英語で演説した。


 彼女は外宇宙にある宇宙国家アーカム連邦の皇女であった。


 彼女が言うには宇宙には二大勢力が存在し、科学と魔法の二つの勢力が現在戦争中であること。

 そして地球がその最前線になりつつあること。

 それを聞いた各国の首脳は呆然となり、誰も呆けたように耳を傾けていた。


 そんな彼らに皇女はこう言った。


「どうか自分たちの力で自由を勝ち取ってください。それだけが私たちの望みです」


 それは一見、激励の言葉に聞こえるが無情な言葉であった。


 何しろ、


 彼らは敵にもなるし、味方にもなる。

 

 自分たちの何百倍もの国力を持つ二つの国のど真ん中に位置する太陽系はもう平和な国々ではなかった。

 


 この日、人類は孤独で無いと知ると同時に哀れな子羊であることを知った。



 それから、人類の孤独な生存競争が始まった。

 先進国はこぞって優秀な人材をこのテトラ星系に派遣し、少しでも多くの知識を吸収すると同時にテトラ星系の人材をこぞって招き入れて自国の経済発展へと導いた。


 圭人自身も今の日本がどうなっているのか想像もつかない。

 自分がこちらに来て一年が経過しようとしているが、この一年でも大幅な変化が始まっているそうだ。


 すでに空飛ぶ車が飛び交い始めており、大企業が次々と先端技術を取り入れた商品を提供し始めている。

 食べ物も変わり始めており、虫の食材も売り始めているそうだ。


(これからどうなんのかな? )


 新しく現れた先進国に追いつけ追い越せでどんどん技術を吸収するのだろう。

 なにしろすべての国が等しく発展途上国になったのだ。

 吸収するのは技術だけではなく文化も吸収していくのだろう。

 いずれエニルなども一般的になり、自分が今やってる生活が当たり前になるんだろう。

 だが、圭人にとって重要なのはそこではない。


「……必ず助けるからな」


 そう呟いて圭人は目を閉じた。

 いつかまた6人が揃う日を願いながら。



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