第19話 補習のお願い
放課後。職員室に向かった圭人は目的の先生に声をかける。
「どうしたんですかケート君」
不思議そうに尋ねるキナミ先生。
「ちょっとカタン人とツリマ人の歴史がわからなくて……僕の星だとカタン人しかいなかったからイマイチわからないんですね」
聞かれてきょとんとするキナミ先生。そして端末を操作してようやく理解する。
「あ~……君は未開惑星の出身ですね。そう言えば前も授業中に笑ってましたね」
「あれはしょうがないような気がしますけど……」
苦笑する圭人だが、若干怒ったように口調で答えるキナミ先生。
「まあ、しょうがない事だとは思いますが、本国では神格化されてる英雄を笑うのはあまりいい事ではありませんよ」
「神格化してるんですか? 」
なんとなく巨大な張り型が練り歩く日本の奇祭を思い出す圭人。
ふぅっとため息をつくキナミ先生。
「先生はツリマ人ですので、カタン人に教える時は色々と面倒な事もあるんですよ。特に歴史の授業は、勝手に先生の思想を取り入れて話す輩もいますので、色々気をつかってるんですから」
「そこなんですよ。ツリマ人とカタン人の諍いというか争いが、イマイチわからないんです。どんな困った事があるんですか? 」
言われてようやく何の事を話してるかわかったのか、ぽんっと手を叩くキナミ先生。
「あ~なるほど。要は差別とか偏見とかの確執の事ですか? 」
「それです! 」
そう言って指さす圭人。
納得してうんうん頷くキナミ先生。
「ケート君はテストの点数もいいのですっかり忘れていました。そう言えば初等部で習うような歴史の全体の流れを知らないんですね」
「……そんな感じですね」
首を縦に振る圭人。
言語の壁は何とかクリアしている圭人だが、いかんせん教養はむずかしい。
「そうなるとちょっと先生だけで話すのは良くないですね……では補習室に来て下さい」
そう言って補習室を指さす。
補習室は職員室から丸見えになっており、中の様子が良くわかる。
先生は適当に机を整理すると、端末を持って圭人を補習室へと連れて行く。
すると赤毛巨乳の圭人の担任リュイ先生が声をかける。
「ちょっと待って下さい」
「なんでしょう? 」
「ケート君。魔法がどういうものかわかってますか? 」
「全くわかりません」
圭人が即答すると苦笑するリュイ先生。
「そんな事だろうと思いました。ユカナに連絡しておきますのでついでに魔法の初等講座もして貰っていいですか? 」
「いいですけどエイキラのスピアールをおごってもらいますよ? 」
ニコニコ笑顔で答えるキナミ先生。
顔をひきつらせて笑うリュイ先生。
「そんなもん食ったらまた太るわよ~。私はいいけどね~♪ 」
「駄肉しか無い分際でどの口が言いますか♪ 」
後ろからどす黒いオーラを出しながらメンチを切り合う先生方。
「後で覚えてろよ」
「てめぇもな」
二人がぼそりと言いあっていたようだが聞こえなかった事する圭人。
とりあえず補習室に入る二人。
「ふっふ~♪ 若い女先生と二人っきりだからといってドキドキしたらだめですよ♪ 」
「違う意味でドキドキしてます」
先ほどのやりとりが原因で冷や汗が止まらない圭人。
「おや? 種族を超えて期待させてしまうなんて私の美しさが悪いのね……」
「貞操じゃなくて命の危険なんですけど? 」
野獣と一緒の檻に入ったかのような感覚がした圭人であった。
先生は何故か上機嫌でスイッチを入れると目の前の白板に光が灯り、補習室の電気が付く。
「ま、冗談はさておいて、これで補習室の中の授業は職員室にも聞こえるようになりました。変な事をやろうとすると職員室からリュイ先生が飛んできますよ? 」
「……どっちを殴ろうと入ってくるんだろう? 」
先ほどの様子からして間違えたと言ってキナミ先生の方を殴りそうだ。
なんとか話しを変えようと圭人は別の話題を切りだす。
「なんか……随分と慎重ですね」
たかが補習に大仰な対応である。
圭人が訝しむの仕方ない。
「それはこれから話す内容を知れば理解できます」
にっこり笑って端末を操作する先生。
「アザース星系における人類の近代史はカタン人とツリマ人の争いでもあるからです」
そう言って星図を出す先生。
「まずはこの図を見てください」
二つの惑星の間を八の字を描いて回る小惑星がある。
「これがアーカム連邦とライオーグ連邦の違いです。見ての通り星が連星になっているがゆえに二つが交わるのは近代になって宇宙に進出してからなんですね」
(なるほど……)
素直に納得する圭人。
「互いに科学技術を進化させて発展していったのですが、ある日を境にふたつの種族は衝突します」
そしてもう一つの図が出る。
二つの惑星の間を8の字に動いていた衛星だ。
「衛星ギニュー。この二つの惑星を往復する衛星に双方とも開発を着手。この衛星の領有権をめぐって二つの星が骨肉の争いを始めたのが最初の戦いです」
そう言ってもう一つの図を出し始める。
「アーカム連邦はニューガンの名将テンネンを総大将にライオーグはホーキョー将軍を総大将に軍を派遣。血で血を洗う宇宙戦争に発展しました」
まだまだネタがありそうだと心の中で溜息をつく圭人。
「ただ、この戦いが皮肉にもアウルを使う技術を急速に発展させ、次に来る維新時代に大きな貢献をすることになります。知性体の分類はわかっていますね? 」
「ええと、大体は……」
先生が迷わず端末を操作して一つの図を見せる。
宇宙における知性体の分類である。
第1 道具が使えない生物
第2 道具・もしくはコミュニケーション能力を持つ生物 → イルカやカラス等
第3 食糧生産・文字の使用が可能 → 文明が始まった辺り
第4 学問が体系的に確立され、宗教・哲学思想がうまれている。 → 中世ぐらい
第5 産業革命・農業革命が起きる。
第6 ITネット・宇宙進出が可能 、星系全体の連携組織が出来る。
第7 アウローラの突破・星系外への本格的進出。
この場合、地球はネット・宇宙進出・国連の三つが揃っているので科学型第6知性体に属する。
「ケート君は科学科ですが魔法における産業革命はわかりますか? 」
「わかりません」
「思った通りですね」
苦笑する先生。
「魔法と科学では学問体系自体は違うものの、優劣は一長一短な所があり、一慨にどちらが優れているとは言えません。魔法では農業革命。科学では産業革命が一つの区切りと言えます。いい例として第6で顕著に出てくるのが得意分野の格差です」
そう言って端末を使い、ある図を引き出す。
科学
自動制御・材料学・効率性
魔法
エネルギー・直感操作
「ざっと分けてこんな特徴があります。ここまではわかっていますね? 」
「はい」
圭人がちょっと自信なさげに答える。
それほど頭が悪い方では無いのだが、何しろ科学一辺倒の世界で生きて来た圭人には魔法の存在がわかりにくいのだ。
ガチャ
唐突にドアが開いて、一人の女先生が入ってきた。
「お、来ましたね」
「はいはい。補習の説明ですねー」
全身をピンクの服で固めた身長ほどもある杖を持った小さな先生だった。
用語説明
知性体
文明基準によって定義が変わるが、基本は『条件が揃っている』ことが重要。
相手の文明基準によって対応が変わり、中には「食べても良い」ぐらいの扱いに変わることが多々ある。
知生体は文明基準と明確に繋がっており、文明=知生体種族となる。
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