里奈の物語
武者走走九郎or大橋むつお
第1話『13日の金曜日』
里奈の物語・1『13日の金曜日』
こんな日でなくてもいいだろうと思う。
だって、今日は13日の金曜日。あたしはジェイソンじゃない。
車窓から見える空はドンヨリ……午後は雨の気配で降水確率60パーセント。
……でも、この空模様だから決心できたのかもしれない。
あたしは雨が嫌いだ……あの日も雨だったし。
晴れ晴れとした上天気もかなわない……その日はピカピカの日本晴れだったし。
「あ、あべのハルカス……」
日本一の超高層ビル……でも、立派には見えない。
ポツンと一人そびえている姿は、なんだか孤独……へんかな、こんな風に思うって。
ま、いいや、あたしが行くのは、あんな街の真ん中なんかじゃない。あたしは……。
あ、止まらない……
電車は今里駅を、アッという間に通り過ぎていった。
急行は停まると思っていたのに……あたしの中で、今里のランキングが落ちた。
難波とか阿倍野とかの都心はいやだけど、ウラさびれて幽霊みたいな町もいやだ。
それに今里から向こうは検索していない。
心細くなってくる……あたしのやることって、しょせんこんなもの。
終点まで行って人に聞くなんて御免だ。そんなことをするくらいなら出てきたりはしなかった。
心配と後悔が胸の中にムクムク。
と思ったら、電車は減速し始め、次の鶴橋駅に停まった。
黄昏色のキャリーバッグを引っぱって、向かいのホームへ、ちょうど入ってきた普通電車に乗る。
たったこれだけのことなのに、手のひらや腋の下が汗ばんでいる。
一駅もどって今里に着いた。
今里駅はホームが三つもある。だからグーグルで見た時は急行が停まると思い込んだ。
「見かけで判断しちゃ……」
ダメという言葉を飲み込んだ。だって……ダメダメ、また考えてしまう。
改札を出てすぐに城東運河。ネットで見た時よりも存在感。
目的地はこの運河の向こう側。
この運河を逆に超えるのは、いつの日だろう。
13日の金曜日……やっぱ、おあつらえ向きなのかも。
橋を渡って二つ角を曲がると目的地『アンティーク葛城』伯父さん夫婦がやっているアンティークのお店。
とりあえず「こんにちは」……それで話は通るはず。
でも、手のひらと腋の汗がひどくなってくる。キャリーバッグを停めて深呼吸。
「さ、いくぞ、里奈」
何十日ぶりかで自分に掛け声、最後の角を曲がる。
――本日休業――
目的地『アンティーク葛城』には無情の掛札……今日は、やっぱり13日の金曜日だ。
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