死都の王

第15話 あの日の残像

 ウィルはデミィに勧められて都市部の学校に通っていた。

 ロンバルドのあの事件から二年がたったある夏の日、彼は同級生のマークと共に校内にある図書館にこもっていた。


 マークに頼まれて彼の作品の感想と指摘を行うウィル。

「ここまで?こんだけできるならクライマックスまで見てくれよ」

「俺にできるのはここが限度だ、あとは自分で悩んで解決して」

 でもなぁ、そういいながらマークは頭をかきながらウィルの書いた修正案に目を通す。

「自分だけで書くとなにを書いても陳腐な内容にしかならないんじゃ無いかって不安でさ」

「それは俺も一緒だよ」

 ウィルはマークに返答しながらカバンから一束の原稿用紙とインク差し、そして羽ペンを取り出した。

「だけど自分の作品を自分で否定する事だけはしちゃいけない、それさえ守れば作品は完成するから」

 マークは宙を仰いでシーリングファンの回り続ける羽を眺める。

「あとはその作品とどう向き合うか、覚悟と意地の問題か」

 その姿勢のまま彼はペンの音を原稿用紙に刻み始めたウィルを見る。

「お前それずっと書いてるよな。完成したら読ませてくれよ」

 ウィルは手を止めた。

「ごめん、これは……」

 ペンダントに触れながらウィルは繰り返し生まれる自分の中の感情を反芻する。

「誰にも読ませる気は無いんだよ、その為に書いている物じゃ無いんだ」

「ははぁ、人には見せられない?それってつまりぃ?」

「バカっそんなんじゃ無いって!」

 ウィルが顔を真っ赤にして立ち上がりながら大声を出すと、おほん!と図書委員が咳払いをして館内ではお静かにの張り紙を指示棒で指す。


 ウィルはあの日からずっとアンジェラのための物語を書き続けていた。物語の次の展開が詰まりとにかく先を書いてみるものの思ったようにできず、ウィルがそれまで書いていた原稿をを握りつぶそうとした時、窓の外から物音がした。外を見るとそこには一人の女の子が倒れていた。外見の特徴からシャムシールの少女だとウィルは気づく。通りかかる生徒は一瞥はしても彼女を助け起こそうともしない。

 2年前に起きたロンバルドの事件は世間的にはシャムシールによって起こされたテロということにされていた。この学校に通う生徒の大半がヴァリスの民族であり、シャムシールの生徒は未だにつまはじきもの扱いされていた。


 ウィルは急いで医者を呼んでくるように図書委員に言って外に出ると、倒れていた女の子を木陰に連れて行き水を飲ませる。

 朦朧とした目でこちらを見る彼女にウィルは不安を与えないよう微笑んで大丈夫だと声をかけた。彼女はその言葉に熱中症からか顔を赤らめながら目を閉じる。

「ウィル、これ使ってくれ」

 後を追ってきたマークから濡れタオルを受け取ると、ウィルは彼女の額にそれを乗せた。


 ウィルは手を握るとレイスを呼び集め拳を中心に冷気を発生させ女の子の体を冷やす。

「おー?それって魔法?お前使えたんだ」

「初歩中の初歩みたいなのしか使えないけどね」

 ウィルはアンジェラと一緒にレイスの声を聴く練習をしたことを思い出す。


 焼けるような日差し洪水のような虫の声、彼女と出会ったあの日と変わらない街。胸の痛みとともにウィルは自分にかけてしまったものの名前をつぶやく。


 ウィルはあの日からずっとアンジェラの面影を追いかけていた。

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