第11話 宿命の子

 神像の下に来たデミィだったが黒衣の男達が現れ、彼らが投擲した爆弾の爆風でデミィや兵士達が吹き飛ばされる。


 ウィルの存在を感知した神像に無数の口が開き無数の人間のような感嘆の声を上げながら口が触手に変わり敵味方無差別に歯で噛み砕き引きちぎり皆殺しにしていく。

 黒衣の男が触手を斬ると、引き裂かれた傷から熱線が溢れ出て周囲を焼き尽くし、石造りの周囲が溶けてマグマと化し、逃げ場を失ったものが次々に灼熱の地獄に飲み込まれ消えていく。


 デミィは天井にマチェットを突き刺し体をその場に固定し様子を伺っていたが、体を振り銃を撃ちながら壁に飛び柱をマチェットで切りつけてそのまま壁を走り、跳弾が天井のマチェットにあたりデミィの進行方向に回転しながら飛び、それを掴むと壁の柱にマチェットを突き立てながら壁を走っていく。


 デミィの行く先に崩れ落ちてきた巨大な瓦礫すら真っ二つに切り裂き、その中を道にして神像に向かいさらにひた走っていく。

「とても現実とは思えない」

 デミィのその様子に狼狽えてそう漏らした兵士にオルウェンはあれが魔法を使うシャムシールにヴァリス対抗できた一因だという。

「対魔気功術、ブランクを経ても衰えがないのは少し恐ろしくもあるがな」


 雄叫びとともにデミィの骨格と筋繊維が魔獣化し、魔獣のオーラにより強度と鋭さを増したマチェットが神像の外殻を捻り斬り、剥き出しになったコアを砕く。

 神像のコアから上の部分が爆発し蠢いていた触手が一斉に動きを止め、熱を失い固まり始めた床に落ちると痙攣しながらドロドロに溶けていった。


 地面に飛び降りたデミィの傍にやってきたオルウェンはデミィの表情の緊張感が取れていない事に気づく。

「どうかしたのか?」

「手応えがない、アイツがこんな程度のもので満足するとは思えないんだ」

 その言葉に兵士たちがあれで?と驚きの声を上げるがデミィの目は真剣そのもので、ウィルがいるであろう上層階を見据えるように上を仰ぐ。

「なにかがおかしい……嫌な予感がする」


 一方そのころウィルとエドは大聖堂までやってきていた。

 そこにあった異様な光景に二人は思わず足を止める。


 まるで騒ぎなどないかのように呆然とした様子でシャムシールの人々が大聖堂で立ち尽くしていた。

 視線を感じたウィルがエドを突き飛ばすと銃声が響きエドのいた地面に弾痕が刻まれていた。

「グラックス……」

 エドがそう言って見据える先をウィルが振り返るとそこには一人のヴァリス族の男が銃を片手に立っていた。

「ああ幸いかな、やはり私は神に選ばれたのだ」

 明らかに常軌を逸した目と本能が悲鳴を上げるようなその男の存在感にウィルは叫ぶ。

「エド、早く逃げろ!」

「君を置いてなんて行けない、その男はまともじゃないんだ」

「わかってる、だから早く行くんだ!」

 エドを撃とうと手を動かしたグラックスの腕にしがみつくウィル。

 間一髪で彼の撃った銃弾がエドの顔を掠め、エドは走り出す。

「必ず戻る!無茶はしないで!!」


「怖がらないのか?」

 楽しそうな様子でそういうグラックスにウィルは素っ気なく言い放つ。

「あんたの狙いは俺だ、とりあえず殺しはしない。違うか?」

 あの状況でエドを狙った事、そしてウィル自身の境遇からウィルはグラックスの狙いを想定した。

「強がりかな?健気な坊やだ。だがそうでなくてはね」

 楽しくない。そう呟いてグラックスは歪んだ笑みを浮かべる。


「エドワルド少年の役目は終わった、あとは仕上げの段階だ」

 そういうと彼は聖堂の内陣の中心に立ち恭しく両手を広げ天を仰ぐ。

「私が本当に必要としていたのは君だ。

 君の力でヴァリスの人々の罪に裁きを、シャムシール王の末裔、最後の降臨者フォーリナーウィリアム・ヴェイル・ラムトン!!」

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