第7話 遺恨

 ウィルとデミィはミサを聴くためにヘルヴィム大聖堂を訪れた。外装は天へと上る無数の天使の光景を思わせる荘厳さ、中に入るとその内装によって突然広がる鮮やかな色とりどりのモザイク絵画や天井絵、柱や梁に至るまで繊細な彫刻が施されその全てがそこを外界とは隔絶された神聖な領域であるという説得力で見るものを圧倒する美しさだった。


「うわぁ……凄いなこれは」

 ウィルが感嘆の声を上げながらあたりを見回す横でデミィは一点を見つめ、そこに見つけたものを睨みつける。そこには覆面をした神官を引き連れた神職の男がいた、男はデミィを見下ろすと悪魔の様な笑みを浮かべる。

「生きていたのか……」

 デミィの脳裏に戦場の光景が蘇る。あの男はそこで軍服に身を包み同じような顔で笑っていた。虐殺を行うとき、彼はいつも恍惚として笑うのだ。

「父さんどうかしたの?」

「ごめんよウィル、用事ができた。すぐホテルに帰って僕が戻ってくるまで鍵をかけて待っていてくれるかい」

「う、うん。大丈夫?」

「ああ、心配はいらない。僕がなんとかする」


 そう言って立ち去ったデミィの背中を見送りながらウィルは彼の表情が兵士が戦場でする無私の表情であったことが気にかかりながらも、アンジェラと聞いたレイスの歌声が印象深くミサを聞いてみたくてホテルに戻るのはその後にすることにした。

 ミサを聴いているとレイスがウィルの周りに集まりウィルの目の色をごまかしていた魔法を解除してしまう。

 ミサに訪れていたシャムシールの人々の表情がウィルの眼を見て急変する。

 その場にいた人々に襲われ取り押さえられそうになったウィルは出口を塞がれ大聖堂の中を逃げ回るが、遂には追い詰められてしまう。

 そんな中彼に声をかける目深にローブを被った少年がいた。

 彼と覆面をした獣人の従者と共に彼の部屋に匿われるウィル。少年がローブを脱ぐと、彼の顔はジャッカルの様な獣の顔をしていた。


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