四の六
「すばらしい、楯岡晴明の体と私の霊体の相性は抜群だ。まるで本来の私の体にもどったような気分だ」
余裕の笑みを浮かべて、周囲を睥睨するようなカシンの態度に、反発するように紫が飛びかかる。
「この野郎っ!」
素早く距離を縮め、凄まじい速さのパンチとキックの連打を放った。
だが、カシンはそれらをなんなくさばいていく。それも大仰な避けかたはせず、わずかに腰をひねり、かるく手で受け流し、まるで柳に風、という形容がまったく当てはまるほど、紫の攻撃はことごとく無意味に帰してしまう。
「このっ!」
紫がやけになって、大振りの打突を放った時だった。
カシンは左腕で拳をそらし、紫の顎に掌底突きを食らわした。カウンターで入った掌は、紫の体を大きくのけぞらせ、後ろによろめかせる。
それを追ってカシンが蹴りを出そうとするのへ、ふたりの間へ横合いから割って入った小町が平手突きを出す。
カシンは体をひねって避け、小町のみぞおちへパンチを打ちこむ。
くの字に折れ曲がった小町の体は、パンチの勢いとともにカシンの頭上まで持ち上げられた。
「いけないっ」
あぐりは焦った。衝動的にアルマ弾を発射する。
カシンは小町の体を光弾の軌道へと動かし、盾にした。
アルマ弾は小町の背中にまともに入ってしまう。
「ああっ」
さらにあぐりは焦った。焦りに焦りがかさなり、頭は完全にパニック状態だった。
その視界から、――小町の陰にいたはずのカシンの姿が消えている。
あ、っと思った瞬間、すでにカシンはあぐりの後背に回り込んでいた。
振り向くあぐりの頬に、カシンの拳が入る。
あぐりは吹っ飛び、十数メートル向こうのコンクリートの壁に激突した。
壁は砕け、穴をうがたれ、外側の土がむき出しになった。
カシンは油断した、とみた紫が、その隙をのがさず正拳突きを放った。
だが、視界の外からの攻撃をカシンはかわし、くるりと回って回転蹴りを出す。その足の甲が紫の顔面を直撃し、吹っ飛ばされ、床を部屋の隅まで滑っていった。
うめきつつ、たちあがろうとする小町の背中を、カシンはまったく躊躇なくなく踏みつけた。
押さえつけられ、小町は苦痛にうめく。
さらに、カシンはその脚に力をこめる。
小町のうめきが絶叫に変わり、広大な空間に響き渡った。
「楯岡晴明は、充分すぎるほどのアルマを集めてくれた。藤林あぐりの持つ膨大なアルマはいささかもったいない気もするが、今後ゆっくりと集めればいい。お前たちを倒してから、ゆっくりと」
カシンは足を小町の背中から浮かせた。
小町の気がゆるんだ瞬間、その脇腹にカシンの蹴りが入った。
彼女の体は、まるで抜け殻のように力ない姿勢で、カシンのアルマが入っていたカプセルの残骸に激突し、跳ね返って床を転がった。
空間の中心に立つカシン。
その隅にうずくまる、あぐり、紫、小町。
カシンは、両腕を左右に伸ばした。
「さあ、なごり惜しいが、少女たち、これで終わりにしよう」
伸ばした両手を顔の前で合わせる。
その直線上には、あぐりの体。
気合とともに、カシンはへたりこむあぐりにむけて、アルマの波動が発射される。
それは長く尾をひき、紫色をした竜のようになって襲い来る。
しかも、それは三つにわかれ、三つ首の竜がそれぞれの
紫は追ってくる竜を走ってかわしたが、その背中に食いつかれる。
小町は、飛びはねつつ、何とかアルマ竜をかわしていたが、ジャンプしたところを追いつかれ、邪竜の牙にかかる。
あぐりは立ち上がり、両腕でガードした。だが、その体は、防御などはおかまいなしに竜に飲み込まれ、竜はそのまま上昇していき、天井を打ちこわし、地中を
洋館の残骸から鎌首をもたげるように伸び出てくる、三匹の巨大な竜。
その巨影は、日が暮れて暗黒に堕ちた池畔に、不気味にうなり、のたうつのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます