二の十二

「よう、またせたな、クソ兄貴」

「別にまってないよ。クソでもないしね」

「いや、クソだ、自分の野望のために他人を傷つけるお前はクソだ」

「まったく、言葉が悪い」

「うるせえよ、お前はあたしの琴線にふれて怒らせたんだよ」

「いや、ふれられて怒るのは逆鱗だね」

「言葉なんぞ、どうでもいい。とにかくお前をぶっとばす」

「お兄ちゃんに暴力をふるう気かい?いけない子だ」

「クソ兄貴の、クソひん曲がった性根を叩きなおしてやろうってんだ。正義感あふれる妹に育ったことを誇りにおもえ」

「お兄ちゃんは、そんなふうに育てたおぼえはないよ」

「あたしも、お前に育てられたおぼえはねえよ」

「これは……、おしおきが必要だね」

 言って、晴明は構えの体勢をとる。同時に紫も構える。

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「はぁっ!」

 紫が裂帛れっぱくの気合とともに拳を突き出した。

 それを受け流す晴明。

 勢いで体が入れかわる。

 そしてふたりは、ふたたびにらみあう。

「ふっ!」

 今度は、晴明が蹴りを放つ。

 紫はそれをかわすが、晴明は脚を着地させると、すぐさまもう一方の脚で、紫を追尾するように蹴る。

 さらにかわす紫。

 紫の突きを晴明が受け、晴明の突きを紫がかわし、幾度となく、ふたりは打撃の応酬を続けたが、まったく相手にダメージをあたえていない。

 ふたりの攻撃はさらに呼吸が同調していき、まるで演舞のように、打ち、蹴り、かわし、受ける。

 長年、祖父の道場で組手をおこなってきたふたりだった。お互いの呼吸と間合いは、完全に熟知していた。

 やがてふたりが同時に上段に放った蹴りが、ふたりの中間で重なりあった。衝撃が辺りをゆるがし、公園のすみにいるあぐりの鼓膜がビリビリと音をたてて振動した。


 あぐりは瞠目し、息を飲んだ。

 ――すごい、あのふたり……。

 晴明は、すでにアルマの修行をつんでいるようだが、紫はまだ変身して間もないというのに、まったくアルマスーツの能力にふりまわされている様子はない。

 変身直後に、スーツによって高められた自分の力に驚倒したあぐりとは、大違いだった。


 体勢を整えた紫と晴明は、数メートルの間合いをとり、にらみあう。

「ふっ、ふっ、ふっ」

 紫はまた不敵な笑声を放ち、言った。

「ウォーミングアップはこれくらいにしようか」

 それに答えて、晴明は、

「そのセリフを言うのは、だいたい悪役だけどね」

 苦笑する。

「減らず口は、このワザをみてから言うんだな」

 晴明、興味深げに眉を動す。

「はぁぁぁぁぁっっっ!」

 紫は気合とともに、面前にもってきた手のひらに、アルマを集中させはじめた。

 そのアルマの塊は、やがて、青い球体に変化し、高密度のアルマの砲弾が生成されていく。

「いくぞ、新必殺技っ」

「はぁ……、旧、もないのに新必殺技もないだろう」

 あきれる晴明に向けて、紫は野球のピッチャーのようにかまえる。

「くらえっ、ブルーインパルスっ! ! !」

 叫びつつ、大きくふりかぶって、砲弾を投げつけたっ!

 瞬間、余裕でかまえていた晴明は脅威を感じたか、表情をひきしめ、両手をつきだして、砲弾を受けとめる。

「う、うおぉぉぉぉっっっ!」

 気合とも叫びともつかない声をあげ、必死の形相で砲弾を打ち消そうとする。

「ぐ、ぐおおおっ!」

 うなって、晴明は、砲弾のエネルギーを受けとめきれないと感じ、上空へむけて渾身の力で、砲弾をはじき飛ばした。

 砲弾は、そのまま成層圏を飛び出すのではないか、というほどの勢いのまま、空高く飛んでいったが、やがて爆発し、内包していた膨大なエネルギーが上空の雲を吹き飛ばした。空一面をおおっていた雲に巨大な穴があき、にわかに、この町の直上に晴天をつくりあげた。

 突如として真夏のような強烈な日の光が周辺を照らし、公園にいる皆の足もとに、色濃い影が描きだされる。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 肩で息をし、しびれる手のひらを震わせる晴明。

「驚いたな」

 晴明を震驚しんきょうさせた紫は、不敵な笑みをますます増長させ、得意が満面からこぼれ落ちそうなほどだ。

 晴明は内心で、妹をみくびっていた自分を戒めた。

 ――これはいけない。

 アルマスーツの力を手に入れた直後に、ここまで能力を使いこなすとは……。

 妹の格闘センスのすさまじさに、あきれるとともに感心せざるをえない気持ちだった。

 ――本気を出さないと、負けそうだな。

 晴明の端正な顔をつたい、ひとすじの汗が流れ落ちた。

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