二の十三

 晴明は両手を握ったり開いたりして、しびれをとると、ふたたび構えの体勢をとる。

「ユカ、ちょっと距離をとったほうがいいよ。お兄ちゃんからのアドバイス」

 軽口を言いつつ、晴明は両手のひらにアルマを集中させる。

「む?」

 兄の言うことに素直に従うのもしゃくだが、数メートル後ろに跳んで間合いを広げた。

 紫が着地すると同時に晴明、

「はあっ」

 気合とともにアルマ弾を右手から撃ち出した。直後に左手からも撃つ。しかも、一発や二発では終わらない。両手に瞬時にアルマ弾を形成しつつ、つぎつぎに弾丸を撃ち出し続ける。

 紫は連続して放たれるアルマの弾丸を、かわし、はじき、またかわし、すさまじい動体視力と反射神経で、すべてさばいていく。

「なめんなっ!」

 叫んで紫は、みずからもアルマ弾を続けざまに撃つ。

 ふたりの中間でアルマ弾が次々にぶつかりあい、炸裂していく。

 最初は小さな爆発だったが、それが十数発たて続けに起き、連鎖して大爆発をひき起こした。

「ぐっ!」

 紫がわずかにひるんだ瞬間、もうもうと立ち込める煙のむこうでは、晴明がさらにアルマを両手に集束させていた。

「ちょっと痛いけど、がまんしろよ」

 晴明は気合とともに両手をつきだし、アルマエネルギーを解き放つ。

 それは弾丸というよりも、長く尾をひき、まるで大蛇のような形状となり、紫に向って襲いかかるっ!

 煙を引き裂くようにして猛スピードでむかってくる光線を、紫は、すんでのところでかわす。

 後方に飛んで行ったと思われた光線は、数十メートル飛んだところで、Uターンして戻ってくる。

 紫は走って逃げつつ、ギリギリまで引きつけると、横っとびに跳んでかわす。ふたたび軌道を変えて戻ってくる光線。紫はさらにかわす。かわした勢いでスリップしつつも、体勢をたてなおして走りだす。追う光線。

 紫は公園内を、右に左に前に後ろに走りまわりつつ、跳んでかわし転がってよける。地面をえぐり草木をなぎ倒しつつ、どこまでも追ってくる光線を、必死に避けつづけた。

 このままでは、らちがあかないとみた紫。光線の操作に集中している晴明の至近距離まで走り、晴明に衝突する直前に上空へジャンプした。

 よくある手ではあったが――。

 晴明はそれぐらいの行動は予想していたとみえ、自分に光線が当たる直前に紫を追って、光線を曲げる。

「ちっ」

 紫は舌打ちした。

 上空に飛んでしまった自分の失敗をさとった。

 数十メートルジャンプして、頂点まで来ていた。あとは落下するだけ。落下軌道を変えることができない自分は、上昇してくる光線と数瞬後に衝突する運命――。

 ――いやちがう、なにかあるはずだ。

 頭から落下しながら、紫は考えた。目前にせまる光線。おぞましい蛇の顔にみえる光線の先端に、紫は飲みこまれる。

 その瞬間。

 紫は両腕を頭のうえに突き出し、腕をアルマでおおうと、体をぐるぐると回転させはじめた。ドリルが回転しつつ穴を開けるように、大蛇を引き裂きつつ突進していく。

「うぉぉぉぉぉっ!こんなものに負けんっ! ! !」

 紫の大音声とともに大蛇の光線は霧散し、紫は着地する。

「む、無茶苦茶だ、この子は無茶苦茶だ」

 常識がまったく通じない紫に、晴明の顔はひきつる。

「ふふふ、ちょっとはやるじゃねえか、見直したぜ。ちょっとだけだけどな」

「お褒めにあずかり光栄です。でもね、目上にむかって、見直したはないんじゃないかな。そこは、お見それしましたとか、感服しましたとか言いなさい」

「なにを偉そうに」

「いや、偉そうにしてるのはユカだよ」

「ふん、余裕かますのは、このワザをみてから言うんだな」

「さっきも同じことを言ってたよ」

「うるせえっ」

 紫は腰を落として、ふんばるような姿勢になった。

「はぁぁぁぁぁっっっ!」

 気を全身にみなぎらせる。

「いくぞ、超必殺!」

 紫は腕を力いっぱい後ろに引いた。

「竜巻ファイヤーっっっ! ! ! ! !」

 腕を突き出し、拳から放たれたアルマエネルギーは、一挙に巨大な風を巻き起こし、瞬時に竜巻に変化する。

 アルマの竜巻はうねりながら、晴明に突進していく。

「ネーミングセンスを、もうちょっと磨きなさいっ!」

 言って、晴明は気合を入れると、腕にアルマをまとわせ、竜巻を押し返そうとする。

「くっ、なかなかのパワーだ。だけどね、この程度の技で倒そうなんて、お兄ちゃんをなめないでもらいたいな」

 その高言のとおり、竜巻は晴明のアルマによってブレーキがかけられたように、速度が落ちていき、徐々に威力が弱まっていく。

「なんのっ、もう一発っ!」

 紫は叫ぶと、ふたたび腕を引いて力をこめる。

「ダブル竜巻ファイヤーっ! ! ! ! !」

 突き出した腕から、ふたつめの竜巻が巻き起こり、それが最初の竜巻と重なり、さらに威力を増していく。

「うおおおおっ!こんなものっ! ! !」

 叫びながら晴明も、さらに腕のアルマを増幅させる。

 その時だった。

「うぐっ」

 なにか背中に強烈な痛みが走った。

「な、なんだっ!?」

 その一瞬の動揺が、腕の防御アルマを弱める。

 そのスキを、紫は見逃さなかった。

「トリプル竜巻ファイヤーっ! ! ! ! !」

 三度放たれた竜巻により、竜巻の威力は超大となり、晴明は、その体を竜巻のなかに投じることとなった。

「う、うおおおおおおっっっっっ! ! !」

 叫び声を響きわたらせ、晴明は竜巻に完全にのまれ、上空へと巻き上げられていった。

 竜巻にもまれ、回転しつつ、身を引き裂かれるような激痛が襲い、やがて晴明ははじきだされる。

 はじきだされた晴明の体は、山の斜面へとふっ飛んでいき、激突すると、木々をなぎ倒し、山頂のむこうに消えていった。

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