一の三

 作者よりの注意:

 この回は、あぐりたちの通う学校についての、どうでもいい設定解説になります。読み飛ばしていただいても問題ありません。




 藤林あぐりたちの通う、私立春野ヶ丘はるのがおか高等学校は、春原はるはら市の中ほどにあり、小高い山の上に建っている。屋上の真ん中に鐘楼をもった――もっとも、そこに鎮座するベルは、生徒たちが一度もその音色を耳にしたことがないのだが――、白亜の校舎が印象的ではあるが、生徒たちの大半はこれといった特徴のない少年少女たちで、ごく普通の生徒が通う、ごく普通の高校である。

 学科は三コースにわかれていて、特進科、普通科、スポーツ科にわかれている。

 特進科は、偏差値高めの大学への進学を目指す、いわばエリートコースで、当然、頭のデキがそうとう良い生徒たちでかためられている。

 スポーツ科は、中学校からスポーツ特待生として入学してくる、運動神経バツグンの生徒の集まり。運動神経のみで推薦入学してくるため、オツムのデキはイマイチ。

 普通科は、中学のときの成績がオール3、テストの順位も学年で真ん中、頭脳も性格も平凡ななかの平凡な生徒たちが大半をしめる。

 一年生のときは、この偏差値高めと、筋肉マンと、ザ・平凡たちが、きれいにクラス分けされているのであるが、二年生になると、状況が変わってくる。

 特に、その状況変化の波にさらされるのが普通科である。最初の一年間で、特進とスポーツの英才教育(と学校側は言っているが、そうとうスパルタ)についていけなかった、生徒が普通科に流入してくるのだ。

 特進科から普通科に編入してくる分には、まだいい。問題はスポーツ科くずれの生徒だ。だいたいの生徒が、身を持ちくずし、素行に乱れが生じてくる。ひらたくいえば、不良化するのである。特に男子。そういう生徒たちは、たいがい三年生に進級する前に、姿を消すのが常なのであるが、それまでの間、その不良たちと教室を同じくする生徒たちにとっては、いい迷惑、いや、はなはだしく迷惑な話だ。

 藤林あぐりと楯岡紫のふたりが在籍する二年四組も普通科であり、そんなピンキリな生徒たちが入り混じる、けっこうカオスなクラスなのである。


 あぐりと紫は教室にはいると、知った顔あいてに、おはよう、おはよう、と挨拶を連呼する。

 あぐりは、教室の片隅にかたまっているオタクトリオにも、通りすがりに声をかけた。

 大きな体躯の大原おおはら君と、小柄な多喜たき君は、小さな声ではあったが、挨拶をかえしてくれた。だが、眼鏡をかけた、杉谷すぎたに君だけ、視線をはずして、そっぽを向いた。

 いつものことではあるが、

 ――わたし、嫌われてるのかしら?

 と、あぐりは、すこし寂しい気持ちになる。

 あぐりと紫が隣どうしの席につくと同時に、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。

 友達と昨日のテレビ番組の話で盛り上がっていた女子生徒も、好きな女子生徒をながめて鼻の下をのばしていた男子生徒たちも、教室のすみでアニメの話に夢中になっていたオタクトリオも、いっせいに自分の席にむかって移動しはじめた。

 今は制服の衣替え期間ということもあり、冬服に混じって合服や、はやばやと夏服を着てきた生徒たちもいて、ところどころある白い制服がまぶしく輝いていた。

 ちなみにこの学校の制服は、男子は詰襟で女子はセーラー服。全国各地の高校がどうなのかは、あぐりにはわからないが、近辺の私立高校のほとんどは、かつては詰襟とセーラーであった学校も、すでにブレザーの制服に変更されており、ウチの学校だけなぜかたくなに昔ながらの詰襟セーラーを貫き通すのか、あぐりにはまったく理解不能なことがらであった。が、スミレ色のセーラー服が、けっこう可愛いと他の学校の生徒から評判をえていると仄聞そくぶんするし、まあべつにいいか、とあぐりはあまり深くは考えないでいた。

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