祖父の骨を食んだ日


あなたが死んだのは 噎せるような夏の日

白いかげと黒いひかりの裂け目から

蝉の声が血のように降り注ぐ

私がまだ子どもだった日のこと


夫を父を兄を うしなったひとたちが

嘆きながら注ぐ白は嘘でもほんとうでもない惨さ

緩くひかりを放ちながら垂れ落ちるもので

あなたの骨の色は決まったのだと夢想する


(わたしは赤いままで死にたい

  大事なものは瞳からこぼれるのではないから)


炉の熱の残る部屋に

あなたの最後を見た

立派な骨だと誰かが言った

わたしは爪の先で歯茎を掻いた

熱に炙られる蝉たちと同じ目をして

溶けるように熱い 骨のあなたが

舌の上に乗る妄想をした


忘れたくなかった

長く陽を受けた浅黒い肌を

小さなくろい瞳を

見つめられたこと ふれられたこと

一度も怒ったところを見なかったこと

夏がよく似合っていたこと

汗をかく姿が永遠のように美しかったこと

あなたがいなくなれば

もうすべてが夢か嘘になって

そのまま夏を生きていけなくなる気がした


けれど妄想は妄想のままで

爪先には桃色の血が詰まるばかりで

部屋の隅から、あるいは夏の隅から

形のない死神が腰を上げて

「そろそろ時間だよ」と笑って言った


蓋と壷が重なり合う

ぎん、という音

わたしというさなぎを閉じ込めた私の

喉の音叉がやかましく鳴らす音

夏が終わってもとまらない


骨のあなたを

子どものわたしを乞うて

いつか死んで燃やされるまで

終わらない

蝉のこえ


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