7月7日のナナ

百々面歌留多

第1話

これは叶わぬ恋の悪あがきだ。

子どもたちが集う七夕祭りの公園でナナは筆を取った。

もらった短冊は緑色、設置されたテーブルで書くことになっている。

周りでは他の子たちが和気あいあいとしながら、何を書こうか相談しているようだ。子どもじゃああるまいし、自分で決めたらいいのに――ナナは声を出さない。

「ナナちゃん、何お願いするの?」

「ヒミツ」

素っ気なく返事をすると、ナナは急ぎ七夕笹の元へと駆け寄る。地元の名士さんが敷地内にあるという笹で市販のものよりもはるかに高い。

「はい、じゃあ、つけるのは大人の人がやるから」

子どもから受け取った願いは初老の男が脚立を使って枝に括りつける。

前の子どもが照れ臭そうにその場を離れていく。次はナナの番だ。

ナナは渡すとき裏返しにしたものの、男は表に反した。何を言われるものか。

「へえ、願いが叶うといいねえ」

「高いところにつけてください」

男は「はいはい」と流しながら、脚立を何段かあがる。

ナナは金網にしがみつく。水の流れる音を聞きながら、対岸の道路をちらと見つめる。並んだ少年少女をきっと睨みつける。

声にならぬ名前を喉の奥へと押し込める。

2人が付き合っていると知ったのは今月に入ってから。噂が勝手に歩いてやってきたのが腹立たしいったらありゃしない。

金網に込める指の力が自然と強くなっていく。

「ナナちゃん、待った?」

友達が後ろから肩に手をかけた刹那、けたたましい音が鳴り響く。

公園内の子たちは一斉に音の方を眺めている。

「どうしたんだろうね、あれナナちゃん」

「帰る」

次々と金網に張り付く人たちとは真逆にナナは歩む。ふと見上げるは七夕笹。風にあおられる枝葉に結びつけられた自分のを見つける。

女の子の叫び声ももはや背景だ。ナナはポケットからもう1枚を取り出して、枝葉の1番低いところにしっかり結び付けた。

それは本当の願いをしたためた短冊であった。




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7月7日のナナ 百々面歌留多 @nishituzura

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