学生寮でつかまえて

翔平は十八歳で、寄宿学校に通っている。

生徒数は百人ほどの保守的な学校で、自由に使えるインターネット環境はなく、携帯電話も禁止されている。外出は認められているが、近所は退屈なので外出する生徒は少ない。

加奈子は養護教諭で、密かに翔平と交際している。


ある日、加奈子の自宅で、ふたりはいい雰囲気になる。だが生理が終わってないから、と加奈子はセックスを断る。翔平はがっかりして辞去するが、ドアを閉めた直後、加奈子の携帯電話が鳴っている音を耳にする。

落胆と不審を抱いて寮に戻るが、自室のベッドに入ると眠りに落ちた。

(切れ目)

朝になり、翔平はいつもどおり身支度をして、食堂で朝食を取り、校舎に向かう。授業が終わり、加奈子を尋ねると、あっけなくセックスすることになった。

機嫌よく帰る道で、大変そうだった生理が一日でおさまるものなのか、と考えた。しかしベッドに入ると、心地よい疲れですぐに眠くなった。

(切れ目)

また朝が訪れ、校舎に行く。だが忘れ物をしたことに気づく。翔平は、明日持っていこうと決めていたものを、ときどき忘れることがある。

放課後、翔平が保健室に行くと、加奈子に今日は会えないと言われる。加奈子が席を立ったすきに、タブレット端末を手に取ると、知らない人物の名前と午後七時と書かれていた。問いただそうとするが、うやむやにされる。

翔平は寮に帰ったふりをして、保健室を見張っていると、知らない男が訪れる。翔平が廊下を走っていき、男に殴りかかるが、翔平を組み伏せられる。男は加奈子に「ばれるのは時間の問題だ」と言い、警察を呼ぶ。

翔平は、警察の簡素な、だが粗末ではないベッドに横たわり、朝を迎える。


翌朝、加奈子が現れ、翔平を引き取る。ふたりは一緒に学校にいくと、平日なのに校舎には誰もいない。今日は誰も登校しない日だ、と加奈子は言う。そして学校の秘密を打ち明ける。


この町は広大な屋内施設で、町全体が隔離病棟である。

耐性をもった結核が流行したとき、翔平は肺だけでなく高熱で脳を損傷し、意識が戻らなかった。だが、人口肺とニューラルネットワークチップを移植する実験対象に選ばれ、この隔離病棟に入る。他の内臓と異なり、肺は随意筋で自在に制御する必要があるが、チップは小型で容量が小さい。だから、毎日デフラグして容量を空ける必要がある。他の生徒たちも同様だ。

デフラグには時間がかかるので、一日おきにハイバネーション(冬眠)させている。寮はそのための施設だ。成果のでた個体は実世界に適合していくため、患者たち、すなわち生徒たちにははハイバネーションは秘密だ。

翔平に気づかせないことを条件に、加奈子は交際していて、ときどき本部に報告をしていた。昨日の男は、加奈子の上司だった。


加奈子は解雇された。翔平は記憶を消されて再スタートするか、安楽死させられるかを迫られる。いつかここを出たとき、自分は必ず加奈子を愛すると無邪気に信じ、記憶を消されることを選ぶ。

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