第6話 少年は機械人形に淫する

「そうかぁ。長距離レーダーって、こうやって使うんだね」

 索敵担当のアクィラが感心したように何度も頷いた。明るい金色の髪が肩の上でふわふわと揺れる。


 艦に装備された複数のレーダーシステムを同時使用することで、詳細なデータを取得し、それをブリッジに据えられた3Dモニターに疑似映像として投影することが出来るのだ。


 これは、クルーがお茶するためのテーブルとして使っているものが、何かのモニターであることに気づいたウェルスが調べた結果だった。

 こんな旧式艦には珍しい最先端の装備といっていい。


「ずっと単独でしか使ってなかったんだけどね。ウェルスくんすごーい」

 真っすぐに褒められるとさすがにウェルスも照れ臭い。しかし、まさか今まで誰も使用方法を知らなかったのだろうか。何だかこの艦は、いろいろとチグハグな感じだ。


「うむ。どうも私たちは機械に弱くてな。ウェルスがいてくれて助かった」


 そう言ってパルミュラ艦長が後ろから抱きついてきた。なぜか最近、急に馴れ馴れしくなってきた。

「ちょっと、何ですか艦長」

「おや? ウェルスは知らないのか。これは吊り橋効果によるものだぞ」

「吊り橋効果は聞いたことがありますが、何の関係があるんです」

 どうにか腕を振りほどき、二、三歩距離をとる。


「もう忘れたのか、あの落下寸前の吊り橋みたいな茶室の恐怖を」

 ゼノビア前艦長に怒られた時の事らしい。

「その時、私は……」

 ぽっ、と赤く染まった頬を両手で押え、ウェルスを見つめる。

「恋に落ちたのさ」


「そんな寝言はさておき、ウェルスさん」

 副官のルセナが割り込んできた。強引に艦長を押しのけている。

「見て欲しいものがあるんです。直せるものなら直して使いたくて……」

「なんだ、もう壊してしまったのか、あのバイ〇」

「違います、まだ使ってもいませんし!」


 ウェルスが思った通り、この『シー・グリフォン』にはメカニックと呼べる人はいないようだ。あのアリソン隊長も戦闘ヘリの構造には詳しかったが、修理とかするための工具すら握ったことがないようだ。

 結局あれもウェルスが修理することになった。


 艦の最奥部にウェルスは案内された。その部屋は広々としてはいるが、暗くて全容は見えなかった。


「ウェルスさん。実は修理とは口実で、ここで思う存分精液採取をしたかったんです。では早速ですがパンツを脱いでください」


「勝手にナレーションを入れないでください、艦長。本当に殺しますよ」

「いや、副官は引っ込み思案だからな。心の声を代弁してやったのだ」

「余計なお世話です!」


 照明を点けると、ちょっとした体育館ほどの広さだと分かった。

「これ凄いじゃないですか」

 ウェルスは半ば茫然とした。

 そこに所狭しと並んでいるものに目を奪われていた。


「使い方が分からなくて放ってあるんだが。いったい、あれは何だ?」


 ☆


 まず正面に10数体、西洋甲冑に似たものが立ち並んでいる。

「これは……、こんなものが残っていたなんて」

 普段冷静なウェルスの声がかすれている。

「おい、ウェルス?」

「すごい。ハイ・ゴシックタイプの”重装歩兵”じゃないですか。それにあれは指揮官用プレイト・メイル、通称『ブラック・プリンス』!!」

 声をあげて駆け寄るウェルス。


「なあ、副官。ウェルスは何を言っているんだ」

「わたしに分かる訳ないです」


「補助動力付き戦闘服、いわゆる『アームド・スーツ』ですよ。もう300年も前に使われなくなった筈なのに。こんなところに残っていたなんて……」

「悪かったな、こんな所で」

 パルミュラは口を尖らせた。

 しかしウェルスは彼女を全く無視し、その金属製の躯体をいとおしそうに撫でまわしている。

「わー、すげーな。動くのかなぁ」


「ウェルスさん、なんだかキャラが変わってしまっています」

「え、これを見て興奮しないなんてことがあるんですか。そっちの方が信じられませんよ」

 振り向いた眼が、今までになくキラキラしている。

「うむ。私の裸体を見てもここまで反応しなかったのにな」

 両手で胸を持ち上げながらパルミュラが首を捻る。


「うわーーーっ!」

 ウェルスの悲鳴があがった。

「どうした、ウェルス!」

 二人はウェルスのもとに駆け寄る。


 立ち尽くすウェルスの視線の先には、それがあった。

 全長5メートルほどの人型、顔に当たる部分には複数のレンズが突き出している。そして、その両腕には大口径機関砲が取り付けられていた。

 圧倒的な禍々しさ。まさに戦闘機械そのものだった。

「ウェルスさんに見てほしかったのはこれなんです」


 ウェルスはそれに顔を近づけ、ため息をついた。

 その特殊金属製の巨体にはいくつもの弾痕が残り、かすかに油の匂いがする。動力部の排気管には煤が付着して、実際に稼働していたことを伺わせた。

 これは、間違いない。


「パワード・スーツ……。しかも、本物だ」

 人型重戦車ともいうべき地上最強の兵器がここにあった。

 ウェルスは自分の顔がほころぶのを感じた。






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