第3話 とある美人生徒会長の悩み
どうしよう。
私は今、絶望の淵に立たされている。
傾いた西日の眩しい生徒会室。その会長席の脇に独り佇み、呆然と校庭を見下ろす。
カッ!と見開いた眼差し、威勢のいい啖呵を切る彼の燃えるような表情が頭から離れない。
「下神克己君……あなたは、私をどうしようというの?」
聞いたこともないような自分の声に、ハッと我に返る。
その心は――
――やってしまった……!
「うう……なんで私っていつもこうなのかしら?」
私はただ、『下神君の部活は活動停止処分になるから、よければウチの華道部に来ない?』って。そう言いたかっただけなのに……!
下神君とはクラスも違うしこれといった接点も無い。
けど、一年前の放課後。生徒会長になりたてで雑務に追われ、華道部との両立に苦戦していた頃。廊下で貧血を起こしてふらついていた私を、下神君は助けてくれた。
『具合悪いなら、保健室連れてくぞ?』
なんでもないような親切心。けど、男子からは高嶺の花と思われ、女子からは近寄りがたい人と敬遠されがちだった私にいたって普通に声を掛けてくれたのは下神君だけだった。
実は私、それ以来、彼のことをなんとなく目で追ってしまうの。
さっきだってそうやって窓から彼を眺めていたのよ?
そしたら……
『くそ……!笑いに来たのか!』って。
そんなつもりはなかった。
けど、彼と会話できるのが嬉しくてついノッてしまったわ。
売り言葉に買い言葉、ではないけれど。燃えるような感情を露わにする、うるさいくらいにアツい魂。私、ああいうのに弱いのよね。
ついついそれっぽく煽ってしまった。
我ながらノリノリだった自分に嫌気がさす。
「昨日読んだ、
それにしては、酷過ぎる。いくら気にしている胸の大きさを指摘されたとはいえ。あまりに酷いやり取りだった気がする。
「けど、下神君もどういうつもりなの?」
彼の言った、『あの一言』が私の脳内をぐるぐると駆け巡る。
――『参りました。私をあなたのお嫁さんにしてください』って言わせてやるからな!
「これってやっぱり……」
下神君、私のことが好きなのかしら?
でも、だからって。
なにも放課後の校庭でプロポーズしなくったっていいじゃない……!
「あああああ……!どうしよう……!」
私は真っ赤になって熱くなる顔を抑えてしゃがみ込んだ。
だってしょうがないでしょ?
男の子に面と向かってあんなこと言われたの、生まれて初めてなんだもの。
しかも両想いなんじゃない?これ。
「はぁ……夢?」
試しに頬をつねる。
「いたい……夢じゃない……」
けど、下神君も奥手だわ。生徒会選挙で勝ったら私をモノにするだなんて。
そんなことしなくても、明日にでも交際を始めていいのに。
ケジメはちゃんとつける主義なのかしら?
イマドキ珍しい男らしさの持ち主ね。さすがは私の見込んだ下神君。
「三年も、生徒会長するつもりだったのにな……」
譲りたくなっちゃう、なんて言ったら彼、怒るかしら?
怒るわね、きっと。男らしい彼のことだもの。
勝負に手を抜かれるのは我慢ならないはずよ。
「上等じゃない。私も全力でお相手するわ……」
死闘を繰り広げ、芽生える想い……決着と共に花開く恋……そして結ばれるふたり……
高校生にして、こんな素敵な経験をすることになろうとは。
「ふふ……胸がいっぱいで食事が喉を通らないわ……」
ダメよ。ダメダメ。食事はきちんと摂らないと。
鳥の胸肉、ささみ、牛乳、チーズ、大豆イソフラボン。
日々の努力が積み重なって、いつか花開く。
下神君も、そう言ってたじゃない。
私は心もとない自分の胸を抑えて会長席に座った。
「さぁ、そうと決まれば選挙の準備よ。私も、負けるわけにはいかないわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます