02 -奇跡呼ぶ歌姫-



 世界の片隅に安全な箱庭の世界があった。

 そこには少女が一人だけ住んでいて、ずっとずっと彼を待ち続けていたのだった。


「ケンカ別れしたのが心残りだった」


 ある日、箱庭に住んでいた少女は、いなくなった彼を探しに安全だった世界を出た。


 少女は奇跡を呼ぶ歌を持っていたが、そんな事は気休めにならないほど、外は危険であふれていた。


 少女と、彼はとても仲が良かった。

 いつもどんな時でも共にいて、それが当たり前の景色だった。


 けれど、ある時些細な事でケンカをしてしまう。


 そして、飛び出した彼を追わなかった彼女は後悔する。

 それきりになってしまったからだ。


 やがて彼女は、長い旅の末に彼を見つける。


 彼は、支えるものもなく、一人孤独に生きていた。


 彼女はそんな彼を赦し手を、差し伸べようとするのだが、何度やっても届かない。


 ある時は、誰かの諍いに巻き込まれ、またある時は何らかの事故に巻き込まれ、彼女が会おうとした彼は命を落としてしまう。


 二人は再会できぬ事を宿命づけられていた。


 彼が死ぬ度に歌を使って奇跡を起こす。彼女は疲れ果てていた。


「私が会わなければ、そもそも彼は死ぬ事がないのよ」


 最後に一度だけ、彼女は彼の名前を呼んで。


 触れる事もできずに立ち去る事しかできなかった。


 暮れる空は彼女を慰めるように、代わりに涙を流していた。



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