第5話 惚れ薬を頭から被ったヴァンパイア
「ほれ薬かなんか入れた?」
「ご名答よ。一気に飲み干しちゃってね。」
「絶対やだ。飲まない。」
「だったら仕方ないわね。飲まないというのなら、無理やりにでも飲ましてあげるのがあなたのためよ。」
「だから飲まないってば。僕のためじゃなくて、どう考えても自分のためじゃないか。」
「だったらこの世界のために飲んで!」
「僕がこれを飲んだところで誰も救われないよ!」
コルアは僕に無理やり紅茶を飲ませようと、僕の身体にしがみついて、腕や首元を引っ張ってきた。
「っこらこら、危ないからやめなさいっ!」
「ぜーったい!飲んでくれるまで離さないからっ!」
無理な体勢でしがみつかれてしまい、暴れるコルアを押さえつけようとしたが、うまく抵抗できない。紅茶をコルアの手の届かない頭上高くに持ち上げると、彼女は僕のコップをもつ右腕にしがみついた。コルアの体重はおそらく40キロ程しかないだろう。
しかし、全体重を僕の右腕にかけてきたせいで、中身の紅茶を思わずこぼしてしまった。パシャっと音がし、銀色の頭、白い肌、薄紅を塗ったような口元、無い胸、ようするにコルアの全身に紅茶をぶっかてしまった。
「うわっ、ごめん。大丈夫か?」
「…………………すき。」
「…はい?」
「ひろき大好きっ!!」
コルアの緋色の眼は、ピンク色に変わっていた。体にかかるだけでも、ほれ薬の効果があるらしい。不意にコルアに思い切り飛び掛かられて、そのままベッドの上に押し倒されてしまった。
「っちょっと、落ち着けって!」
全然、全く持って僕の言葉はコルアの耳に入っていない。彼女は僕の首元に何度もキスしてきた。彼女の脇腹を抱えて、無理やり引き離そうとするが離れない。
「っひゃうっ、そんなとこ触ったら…ダメ///」
「変な声出すな!いいから離れろ!」
勢いをつけて何とか引き離した。また抱き着かれる前に、急いで部屋から飛び出した。
「まって、いやだよ…。おいてかないで。」
部屋からは出れたものの、屋敷の中は広かった。階段を駆け下り、外への出口を探していると、おぼつかない足取りでコルアが追いかけてきた。
「わたしのひろきなんだからぁ。ここにいなきゃだめぇ。」
「お前のひろきさんではありません。ここにいなきゃダメな理由もない!」
でかい扉が見える。おそらく出口へ続いているのだろう。開けようとしたが、持ち手の部分が鎖でグルグル巻きにされている。鎖を何とか外そうと試行錯誤していると、夏の暑い日に遊園地のお化け屋敷に入った瞬間のような、ゾクゾクっとする冷気を背中に感じた。 耳元で囁く氷のような冷たい声が聞こえた。
「逃がさないわよ…ひろき。」
雪山に裸で放り出されかのように、僕は全身が凍り付く恐怖を感じた。
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