刃
月ノ輪 レイ
第1話私
「はい!みんな、模擬刀はしまって。授業始めるわよ!」
周りでチャンバラごっこをしていた男子達が一斉に席に着く。
「今日はね、足し算のお勉強をするのよ。」
・・・
こんな平和な日常が続くと思っていたあの頃の私はまだ純粋だったのだろう。
「おい、
一瞬何を言ってるのか意味が解らなかった。小学3年生という未熟な年齢だったから仇という意味が解らなかったのではない。
「男子の仇」という部分に何も思い当たるものがなかったのだ。
いや、この頃の男子に理由などカタチだけでよかったのだろう。
相手を滅多打ちにするのにカタチだけの理由さえあれば自分を正当化できる。
だから模擬刀ではなく本物のナイフをつかう。
いきなり小学3年生が突拍子もないことを考えたようにみえるが、私の今では子供がナイフを持っているのは普通だ。
幼稚園から小学校までは模擬刀が国から配布され、本物のナイフが国から配布されるのは中学から高校だ。
ある一つの目的のために小さい時から刃物を身近なものにしておこうという国の政策の一部だ。
だが…なのになんでこいつは本物のナイフを持っているんだ?
私の見間違いなのか?
考える時間はそんなに長くはなかった。
なぜなら、そのナイフを振り下ろして綺麗に私の頬に紅い線を引いたのだから。
あぁ…と少し呆れた声が出る。けれど、周りの目が多いためさすがによくないだろうと思い、言葉で抵抗する。まぁ、案の定そんな抵抗でひるむような輩ではない。そのまま武力や暴力を使いこちらを攻撃してくる。
しかも向こうは男子3人だ。小学3年生だからあまり男女での体格の差はないが、それでもやはり男子と女子、そして人数の面を考えると勝つということは考えるべきではないだろう。
私は抵抗するのも面倒くさくなり受けの姿勢に入る。こういう輩は相手の反応を見るのが好きな愉快犯が多いからだ。だが、周りがキャーキャー言っているからだろう。一向にやめる様子はない。ナイフで切るところもでたらめではなく、あまり目立たない所を狙っているようだ。
そんなことをのんびりと考えているうちに、先生が来た。それを見た瞬間向こうは本物のナイフを隠す。
周りも遠くから見ていただけのようで本物のナイフの存在には気づいておらず、私は面倒ごとを避けるためその存在は隠した。
その教師の怒り方は、キーキー相手を挑発し、もっと面倒ごとに発展させる子供のようなタイプだったため私までも長々と話を聞かれ、被害者側なのにも関わらず疑われまくるというなんとも無駄な時間だった。
私はあの短時間で色々考えて最善を尽くしていたというのに。
・・・
「懐かしい夢を見たものだ。今はあんな脅威などとは比べものにならないほどの敵にあたっているのだから、忘れてもいい頃だとは思うのだがね。」
欠伸をしながら独り言を言ってみる。
そんな独り言は一瞬で周りの騒音にかき消された。
今は2130年。2020年の東京オリンピック後の悲劇で、そのころとは大きく変わった日本というカタチだけ存在している国で、私、
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