低音障害型感音難聴の記録

きたひろ

第1話 予兆

 特に何も変わってない朝だった。

 しかし、目を覚まして起き上がると音が濁って聞こえる。

 気圧とかが変わると耳が詰まったような感じになるアレだった。


 こういう場合はいつもの通り鼻をフンフンすると治るので何度か試すが何も改善されない。しかし、このときはどうせ一時的なものだろうと思い、そのまま仕事に向かった。


 これは異常だと気がついたのは仕事から帰ってきてからだった。自宅に入って静かな環境になると左耳にものすごい耳鳴りがしていることに気がつく。耳鳴りと言えばキーンとか高音を連想しがちだが、今聞こえているのはブーンという低音のノイズのような感じである。


 なぜ家に帰るまで気が付かなかったのかと言えば、今働いているところはスーパーの食品の配送を行う冷蔵の倉庫で、常時やかましい空調が鳴りっぱなしだったからである。

 

 今までこんな耳鳴りがなったことはなかった。正直これはミスったと感じた。何がミスったかといえば今日は土曜日だったことだ。つまり明日は日曜日なので病院は基本休みなのである。


 最近は休日診療をしている病院も割とある。どこか休日に診察をやっている耳鼻咽喉科はないかとネットで検索してみる。が、まったくない。内科とか整形外科はあったが耳鼻咽喉科は見つからなかった。


 仕方ないので、その日は耐えるしかないと思ってテレビをつけて耳鳴りが気にならないようにした。


 このとき初めて左耳に何が起きているのか気がついた。低音だけが聞こえない。女性の声や音楽の高音は聞こえるが、低音部分だけは聞こえないのだ。おかげでテレビの音声がやたら軽くて安っぽいものになって聞こえてきている。


 思ったよりやばいんではと感じてその日はすぐに寝ることにした。


 翌日の朝、起きてみたが全く症状は変わってない。しかし、日曜なので病院もやってないし、耳以外は特に問題もないので仕事に行くことにした。


 そして、仕事を終えて自宅に戻って気がつく。耳鳴りが消えている。テレビをつけて見ても低音もしっかり聞こえる。気がついたら治っていたのである。


 正直何だったのかと思ったが、治ったからいいやと思うことにした。治っている以上、月曜も病院に行く必要ないので普通に仕事に行くことにする。


 思えばこのとき病院に行ってればよかったと後で散々後悔することになった。

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