第29話 再び決闘

 ペレスと暴虐王の決闘日当日。


 グロス王国の王都を悠然と歩く女性がいる。

 彼女は通りすがった王都住民すべての視線を集めていた。


 それは、彼女が物凄い美貌の持ち主である上、背中にドラゴンの翼を生やしていたからだった。


 マシャ・サーナルド、母を苦しめる暴虐王の父を討つため、決死の覚悟でバグダムドに決闘を挑みにこの王都に来た。


 恐れはない。彼女は自分の修行の成果を信じていた。

 マシャは世界でも10本の指に入る力量を持つと言われている、剣豪ラスマーのもとで、5歳の頃から10年間修行をした。

 ラスマーから史上最高の才能を持つと称されたマシャ。12歳の時点で師匠よりも単純な力量は上回るようになり、そしてそこから三年の修行で教えることはなくなったと、太鼓判を押された。


 そんな自分であるならば、大陸最強の生物とも呼ばれるバグダムドに必ず勝てると、自身を持っていた。


「ん?」


 マシャは空を見上げる。

 何やら物凄いスピードで、謎の物体が空を飛んでいった。

 かなりの速度だったが、マシャの優れた動体視力はその物体の正体を掴んでいた。


 人間だ。

 飛んでいた物体は人間の男だった。


 なぜ人間が? マシャは疑問に思い理由を考える。


(暴虐王か……)


 今日、自分以外の誰かが暴虐王に決闘を挑み、そして吹き飛ばされたのだと、マシャは推測した。


 決闘場付近まで行くと、


「あーあ一瞬で終わったな」「でも、あんなスピードで人が飛ぶなんて」「やっぱり暴虐王は化け物だ人間じゃねー」


 そんな会話を聞く。マシャは自分の推測は正しかったと思った。


 あの速度で飛んで行ったのでは、間違いなく本人は死んでいるだろう。


(やはり暴虐王は、私が倒さねばならない。あの男の暴虐な振る舞いを今すぐ止めなければいけない)


 マシャはそう決意し、城へと向かった。


 城で門番に決闘をしたいと告げる。


「ま、またですか?」


「一度行われた後では、期間を空けないと決闘はしないのか?」


「いえ、そういうわけでないです。ちょっと待っていてくださいね」


 門番の男は城に入っていった。


 そして、しばらくすると戻ってきて、


「決闘受けてくれるそうです。えーと、普通は5日後くらいにやるらしいのですが、どうも今日の決闘が面白くなかったらしく、明日するとバグダムド様は言っているそうです。では、城の控え室まで案内するので、

 付いてきてください」


 マシャは門番についていき、控え室に入った。



 ○



 王城の王の間、暴虐王バグダムドが、踏ん反り返りながら玉座に座っていた。


 近くには、複数の側近が怯えたような表情で跪いている。


「早速、明日決闘が行われると、民に伝えろ」


「はっ!」


 そう命令され急いで命令に従う側近たち。


「くっくっくっく、今回の決闘相手はびっくりするほど美しい女で、しかもドラゴンだという話なんだよな」


「はい、そうでございます」


 残っている側近の一人が答えた。


「じゃあ、あいつ並みに丈夫だってことだ。少し奴にも飽きてきたからな。今回はルールとかどうでもいいから、殺さずに捕まえよう。そして、一日中犯してやろうじゃないか」


 バグダムドはニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、そういった。


 彼は圧倒的な力を持っているが、内面はただの俗人であった。

 いい女を抱きたい。他人より上に立ちたい。自分より下のものを見下したい。金が欲しい。権力が欲しい。

 そんな誰もが抱く欲を持ち行動していた。


「明日が楽しみだぁ」


 バグダムドは心底待ち遠そうにそう呟いた。



 ○



 翌日。

 ペレスがいなくなって、一向はとりあえず宿に泊まり一夜を明かした。

 現在は宿一回の酒場で、朝飯を食べているところだった。


「1日経ったけど、まだ帰ってきませんね」


 バラシアがそう呟いた。

 まだペレスは王都に戻ってきてなかった。


「もしかして、道がわからなくなっているのかも」


「だいぶ飛ばされてたからな。しばらくは待つか」


「面倒かけさせるわねーまったく」


 ミナ、レミ、アイシャはそれぞれ呟いた。


「ぬう。最近は奴の動きを観察して、呪いの正体を探る以外のことはしておらんかったから、奴がおらんとなると暇じゃ」


「メオンちゃんそんなことしてたんだ」


「どんな呪いかはわかったのか?」


「全然じゃ。それより我をちゃん付けで呼ぶな」


「えーいいじゃーん。メオンちゃんよく見ると可愛いしー」


「殺すぞ?」


「ご、ごめんなさい……」


 メオンに威圧されアイシャは謝る。どうやらメオンは可愛い扱いされるのは嫌いなようだ。


「おい聞いたか? 決闘が今日もあるってよ」


「まじか。今日は昨日より骨のある奴だったらいいけどな」


 いきなりそんな会話が聞こえてきた。


「決闘? 今日もやるのか?」


「もしかしたら、ペレスさんが戻ってきてもう一度決闘を申し込んだのかもしれません」


「どうだろうね……まあ、違う人だとしても興味あるし行ってみない?」


 アイシャがそう提案する。


「さんせー」


「そうだな。行ってみよう」


「私も賛成です」


「我も暇じゃし、行ってみるか……」


 全員観戦することに賛成した。


 5人は決闘場に観戦に向かった。





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