1万年生きた不老不死の俺、死ぬ方法を探して旅してたら何故か英雄になってた

未来人A

第1話 旅に出る

 こんな昔話がある。

 ありとあらゆる富と権力を集めた王様がいた。その王様は不老不死になれる方法を家来に探しに行かせたらしい。

 結局、不老不死になる方法は見つからず、その王様は死にたくない死にたくないと苦しみながら、その生を終えた。

 どんなに富を持っていても、権力を持っていても、最後には絶対に死んでしまう。どんな生物にも死という最も避けるべき瞬間が絶対に訪れる。そんな世界の無常さをその話は説いているのだ。


 だが、今の俺がその話を聞いて思うことは普通の人間とは違うだろう。


 死ねるって幸せだ!


 終わりがあるって何ていい事なんだ!


 少なくとも1万年生き続けるという拷問に比べれば、全然全然幸せだ!


 そう、不老不死の呪いにかけられ、1万年生き続けている俺ペレス・ギャントルは、話を聞いてそれ以外の感想は思い浮かばなかった。


 呪いをかけられたのは今から9984年前、16歳の頃。

 もはや16歳の頃なんて覚えている事はほとんどないが、アレだけは覚えている。俺が不老不死となった元凶となった事件だけは。


 呪いをかけてきたのはとある魔女だ。しわくちゃのババアではなく、若くて可愛いやつ。まあ、今はババアどころか骨になっているだろうが。

 その魔女は悪事を良く働く有名な魔女だった。


 当時、俺は罪人を退治したり捕らえたりする仕事をしており、その仕事で魔女と戦う事になった。

 結果は惨敗。ボコボコにされる。殺されそうになったから殺さないでくれ頼む! と懇願したら、ここで死ぬか、不老不死になるか、選べと選択を迫ってきた。

 今の俺なら確実に死を選ぶであろう。だが、当時の俺は愚かにも不老不死になることを選択した。

 そして不老不死になる魔法とやらをかけられる。


 それからマジで何をやっても死なないようになった。

 どんなに怪我をしても死なない。歳をとらない。

 当初俺は浮かれてたさ。そりゃ死ななくなったんだ。すげー能力を手に入れたと思ったよ。俺を不老不死にした魔女に感謝さえした。


 分かってなかったんだ。死ねないということの苦しさが。当時は何も分かっちゃいなかったんだ。


 最初に気付いたのは、不老不死を手に入れてから120年後。友達、妻あたりが先に死んでいき。俺は少し心が参っていた。参っていたがまだ必然であると受け止められた。ただ、子供が老いて死ぬ様を見た時は、心がうちのめされた。この頃、初めて気がついた。不老不死になるということの苦しさを。


 大切な者の死を二度とみたくないと思った俺は、しばらく人と関わりを断つようになる。その期間およそ300年。

 つらい。つらすぎる。一人ぼっちでずっと生きるのはつらいよ。

 耐えかねて外に出て、またつらい目に会って、引きこもって、外に出て、その繰り返しを1000年くらいやってた。


 しかし、ずっとは続かない。何と言うか、長いあいだ人と触れ合って接していくと、人間という生物の高が知れてくるようになってきた。人間との触れ合いの中で、感動したりすることがまったくなくなっていった。つまり俺は人間に飽きたのだ。


 ここからが本当の地獄だ。大切な人の死を嘆いたり、一人になって寂しくなったり、そんなことを思えるうちはまだ幸せだったのだ。


 徐々に徐々に何をしても何も感じなくなる。時間の経過と共に知っていることが多くなると共に、何をしても楽しいと思えなくなる。


 それでも俺はいろんな事をやってみたさ。


 意味もなくめっちゃ高い塔を建ててみたり、女になる魔法を使って、男とS○Xしまくったり、魔王を倒してみたり、魔王になってみたり、宗教を開いてみたり、やべー魔物を作ってみたり、その魔物を封印してみたり、自分のドデカイ銅像を作ってみたり、姿をコロコロ変えてみたり、ドデカイ穴を意味もなく開けてみたり、ダンジョンを造ってみたり、色々やったさ。


 でも、遂に1万年経った現在。飽きました! 完璧に飽きた! もう何もやる気が起きない!

 ていうか5千年前くらいから飽きかけてました。でもあの時は、魔王になって世界征服するのを少しは楽しめていた。200年くらいで飽きたけど。


 まあ、とにかく飽きたので、そろそろ俺は死ぬ! 

 でも、今の現状では呪いがあるので、死ねない。呪いを解く必要がある。

 長年生きて、大概のことが出来るようなったおれだが、呪いだけはどうしても解けない。あの魔女かなり凄いやつだったようだ。

 ただ、今の俺が本気で解きにいって、解けないわけがあるまい。絶対に解けるはずだ。


 てことで、行こう。不老不死の呪いを解き死ぬ旅に!

 今の俺は痛みを感じないような体になっている。死ぬときも一切苦痛なく死ねるだろう。


 俺は自分の家を出て旅に出る。ちなみに俺は山奥のボロボロの小屋に住んでいた。ここで100年ほど、ゴロゴロして過ごしていたのだが、ゴロゴロするのにも飽きた。


 俺は家を出て旅に行こうとすると、


「ギャオオオオオオオ!」


 雄たけびが聞こえる。聞き覚えがある。ドラゴンの雄たけびだ。

 近くにいるみたいだ。結構珍しい魔物なんだけどなドラゴンって。

 俺はドラゴンを探した。

 いた。悠然と空を飛んでいる。


 そうだ。アイツの背から落ちてみよう。

 まあ、死なないだろうが、自殺の初歩的手法を最初にやってみよう。

 俺はぴょんとジャンプして、空を飛ぶドラゴンの背中に乗った。俺は普通の人間ではありえないほどジャンプする事ができる。

 その後、ドラゴンは俺が乗っている事に気がつかずにそのまま飛び続ける。

 俺は、立ち上がり、


「逝っきまーす!」


 と言ってドラゴンの背中から飛び降りた。


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