第九十三話 開戦初日終了
「報告!」
「どうした」
「ソンジン将軍が敵の捕虜になり、ガクザン将軍戦死との報告です」
「はぁ? なんだそりゃ。第一陣全滅じゃないか」
兵士の報告を聞き、勇者ショウは忌々しそうな顔をしていた。それは当然、自分たちが下とみていた魔王軍にしてやられたのだった。
「ソンジン、ガクザンを行き成り失ったのは痛いな、降霊魔術の二名は安定性にかけるが……四の五の言ってられんか」
ふむ、と唸り顎に手を添えショウは考え込む。
(アストにルーツ……この二名をどうやって敵国に送り込むか? まさか橋を壊すとは思わなかったからな……仕方ない、アレを使うか)
ショウは兵士を呼び指示を出す。
兵士は怪訝な顔をするがショウは構わず指示を出す。そしてしばらくすると兵士が大きめのソースフェールを持ってきた。
「勇者様本当にこれを使うのですか?」
「ああ、コイツに兵士を運ばせる。まあ、一気に運べる数には限りがあるが、兵士にソースフェールを持たせて運ばせれば、簡易の橋を作る時間は稼げるだろう」
「まさかドラゴンゾンビを移動手段に使うだなんて……」
「イかした乗り物だろ?」
そう言って笑うショウ。
「イカレタ乗り物ですよ、十大古龍の一体をゾンビにして使うだなんて正気じゃないですよ」
「なかなか強かったぞコイツ、倒すのに苦労したからな。なんだっけ
「はい、現存する最強種の十匹確認されてる
「強風に瘴気を乗せて放つゲロブレスとか最悪だよなぁ」
ケタケタと楽しそうにしているショウを冷ややかな目で見る兵士。
「さて、クドゥ・ヴァンを出撃させたら俺も出るかな、橋を架けるまで時間稼ぎしないとな。俺が出れば魔王が出てくる可能性は高い、そこで俺が魔王を倒せば終わるかもしれんがな」
「アスト殿とルーツ殿はどうしますか?」
アストとルーツ、ショウが開発を進めていた降霊魔法の被検体である。
降霊魔法は正者に死者が使っていた道具を媒介にし、その死者の魂を一部憑依させその者の能力をコピーする魔法であった。
「アストはドラゴンゾンビの制御にも必要だから強襲部隊として連れていけ、ルーツのヤツは俺と一緒に橋を越えたら俺より前に出て橋を作る部隊を守れ」
「準備には最低でも一日はかかりますが、その間はどうします?」
「ゾンビ共を使い時間稼ぎしつつ準備を急がせろ、明後日にはクドゥ・ヴァンを使った強襲作戦に切り替える、サルジーン親衛隊のゾンビを使うことを許可する、アレは並みのゾンビとは違うから戦場を硬直状態に持ち込める」
「は、了解しました」
命令を伝えるためにショウのもとを去っていく兵士、その兵士を見ながら薄ら笑みをうかべショウは呟いた。
「魔王領か想像以上に凶悪になってやがったな、仕方ないこちらも出し惜しみは無しだ」
――
――――
「どうやら第一陣は大した被害もなく凌げたようですね」
「はい、敵も後退していきます」
「兵士達に交代で休息を与えてください」
「かしこまりました」
モルテが部屋を出ていきました。
皆の協力で敵の一陣は退けることができ、敵の将軍イ・ソンジンも捕まえる大戦果を挙げることができました。
幸先の良いスタートと言ってもよいでしょう、しかし以前の襲撃の時のようにチヨルカンの勇者は卑怯な手でも平気で使う相手です、油断はできない相手です。
「私も出る準備をするとしましょう、総大将が出るなんてと止められるでしょうが、皆さんが頑張ってるのに、私だけがぬくぬくとここで待ってるわけにもいきませんからね」
「その意気ですわ」
私が一人で気合を入れているとマナカさんの声がしました。
「マナカさん? もう大丈夫なんですか?」
「ええ、少し休んだので大分楽になりましたわ」
「そうですか、それは良かった」
私がそう言ったところで兵士の方がやってきました、また動きがあったようです。
「報告です、ヨネダ中尉から報告『ワレ、敵部隊をホボ壊滅にシタリ。シカシ少数は本陣ヘト帰還中』とのことです」
ヨネダ中尉の部隊はどうやら、ガクザン隊をほぼ壊滅にまで追い込んだようです。
流れは完全にこちらに向いているようですね、初日で敵の主力を二名も倒すことができました。
「いい流れですわね、こうなると敵さんはかなり余裕はなくなってると思いますわね」
「そうなりますね、格下に見ていた私たちの手痛いしっぺ返しを受けましたからね。ただ勇者もこのままで終わることはないでしょうね」
「ええ、相手もなりふり構ってはいられないでしょうね。近いうちに仕掛けてくるはずですわ」
「私もうって出るつもりです」
私は先ほど気合を入れた時のように、マナカさんにそう宣言します。
「ええ、ええ、それがよろしくってよ。大将が出れば士気も上がりますものね。ならばワタクシも動かねばなりませんわね、勇者とやらはワタクシが倒しますわ。さあ、勝ちますわよ!」
ああ、そういうマナカさんの姿が私には眩しく見えます。もう何十年と一緒にいるパートナーのように思えるほどにこの人は頼もしい存在です、この人がやるといえば何でも出来てしまうのではないかと錯覚してしまうほどに、この人が勝つといえばおそらく勝ってしまうのでしょう。
「そうとなれば、マウナさん皆を集めてこれからのことを話し合いますわよ。作戦会議ですわ!」
「わかりました」
私達は次にどうするかを話し合うために会議室に集まることにしました。
そして初日が終わりを迎えるのでした。
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