番外編 其の壱 お嬢様観察日記

 

 皆さんおはようございます

 

 武器防具の店で新しく装備を整えた次の日、今日は休息の日にしようという事で皆さん別行動となっています。

 そこで私はマナカさんがどういう人かをより深く知るために、今日一日マナカさんを観察しようと思います。

 

 マナカさんと出会ってから一ヶ月と少しが経ちますが、未だに分からないことだらけな不思議な人がマナカ・クナギという人です。無駄に自信家で女の人なのに美少女、美人に弱く、合理的な所も有れば非合理的なところもある、元々はお金持ちのお嬢様のようですが言葉使いは丁寧ですが発言は割と俗っぽい人です。

 でも何故かこの人といると安心できてしまう不思議な魅力を持っています。

 

 マナカさんが宿の部屋から出てきました、服装はこの街に来た時に購入した動きやすそうな赤紫色の服装です、何でも元いた世界にある芋ジャージという服に似ている服を選んで買っていました。

 「ワタクシ、芋ジャージって着たことないのですのよね、一度着てみたかったんですわ」との事であの服を購入してました。

 

 どうやら街の外に行くようです。

 

 目的地に着くと長い綺麗な黒髪を後ろで束ねて縛った後、腕を伸ばしたりして準備運動をしていました。準備運動の後走り込みを始めます、マナカさんは自信家ですが努力もする人のようです。

 以前も街に行く前に準備をしたいと言った後、今みたいに体力作りに文字の勉強、魔法を覚えるための勉強もやっていたようです。

 三十分ほど走った後、今度はマナカさんが良く使う構えを取りながら一気に間合いを詰めるように頭を少し下げてのステップの練習を繰り返しています、真剣な表情のマナカさんは女性の私から見ても綺麗な人だと思います。

 中身は少しオッサン臭いのが玉に瑕ですけど……

 

 ステップの練習も終わったようです、休憩をしていますね。休憩後また走り込みと構えのフォームチェックを自分でした後、街に戻るようです。

 

 

 マナカさんが街に戻ると。

 

 「ひったくりだー、誰かそいつを捕まえろ!」という声が聞こえてきましたすると前方から大柄な男が袋を抱えて走ってきます。

 マナカさんがやれやれと言ったように首を振ると男の前に出ました、マナカさんが前に出た事で男がマナカさんに向かって叫びます。

 

「どけ! ぶっとばされてぇか!」

 

 男は少しかがんでタックルするようにマナカさんに向かって走っていきます、身長差は約二十センチはありますがマナカさんは怯むことなく男の懐に潜り込み肩に担ぎあげた後背中から地面に叩きつけます。

 マナカさんが倒れた男の鳩尾に当て身を決めて気絶させたところで警備の兵士がやってきました、男の事を警備兵に任せるとマナカさんは再び歩き出しました。流石はマナカさん実に華麗な技でした、何という技だったのでしょう?

 

 マナカさんはどうやら宿で朝食を取るようです、シェリーさんにトーストを頼みつつ口説いています、マナカさん曰く綺麗な女性は口説くのが礼儀だとか言ってました、アニタさんには自分の事をお姉さまと呼ぶようにといまだに勧めていました。

 マナカさんのこういった部分は実に残念なところです。

 

 食事を終えたマナカさん今度はどこに行くのでしょうか? 中央広場に向かっていきました中央広場から更に先に進むとお店に入って行きました、本屋のようです。本屋は狭いので私が入っていくとバレてしまいますから外で待つことにします。

 少しするとマナカさんが本屋から出てきました、本を購入したようです。

 どうやら魔導書のようです、本を持ったマナカさんはまた街の外に出ていきました。おそらく魔法の練習でしょう、マナカさんの元居た世界には魔法が無かったようです、そのためか以前マナカさんはこう言ってました。

 

 「なんで小説で異世界デビューしてる主人公達は簡単に魔法とかポンポン使えるのでしょうね? 羨ましいですわよ本当に……」と愚痴りながらサティに魔法を教えてもらっていましたね。

 

 マナカさんが魔法の練習を始めたようです、本を開いて確認しています、マナカさんはすでに地属性魔法の初級は納めています、正直今まで魔力と言う物を使ったことすらなかった人なのに驚くほどの上達をしていると思います。

 マナカさんは格闘技能もそうですが全体的に天才肌な人です、しかも努力をする天才です。

 「ワタクシ文武両道を心がけていますのよ」と話してくれたことがありましたがまさにその通りの人です。

 

 マナカさんの魔法の練習を見てますが、初級は属性相性もあるためか完全に無詠唱で唱えることが出来ているようです。

 凄いです、下水でもストーン・バレットとストンプトゥは無詠唱で使っていましたが、まさか初級全部を無詠唱で唱えれるようになっていたのには驚きです。

 

「――我は命ずる、大いなる大地よ我が声に応えよ、我を守る壁となれ!! ストーン・ウォール!!」

 

 え? 中級の魔法ですか? マナカさんが詠唱を終えて地面に手を当てるとそこから石でできた一メートルほどの高さの壁が出現しました、私は驚きを隠せません。一ヶ月半ほどで中級の魔法が使えるなんて地属性との相性が5有るとはいえ早すぎます。

 このまま行けばすぐに中級魔法も無詠唱で使えるようになるやもしれません。

 これは私もうかうかしていられませんね。まあ、私はすでに闇の極大魔法まで使えますけどね、えっへん! (意味のないドヤ顔)

 

「ふふ、一応成功ですわね、マウナさんもビックリするでしょうね、ワタクシ自分の才能が怖いですわ。ですがここで満足はしていられませんわね、前衛のワタクシが詠唱しながら戦うのではいけません、無詠唱で扱えるようにならないといけませんわね」

 

 誰もいない場所でも自信満々なマナカさん、ですがそこで満足しないのは凄い向上心です。

 

「マウナさんがワタクシを呼び出してくれたおかげで、死にゆくだけだったワタクシはこうして異世界ですが第二の人生を送ることが出来てますからね、彼女を守るためにもワタクシはもっと強くあらねばなりませんわね。

 マウナさんの願いである国の復興もせねばなりませんし、そのために次の任務の失敗は許されませんわ、ムーロさんとの間にコネが作れればきっと大きな力になってくれますものね」

 

 マナカさんの呟きを聞いて私は嬉しくなってしまいました、私が召喚した人がマナカ・クナギで本当に良かったと思えます。

 

 

 こうしてマナカさんの魔法の練習は昼食を取らずに昼過ぎ夕方近くまで続きました。

 マナカさんが練習を終え戻ろうとした所に女の子の悲鳴が響き渡ります、不思議とマナカさんの周りではトラブルが起きます、マナカさんの体質でしょうねこれは。

 

「あらあら? 女の子の悲鳴ですわ? 声質からしてきっと美少女ですわ!」

 

 また訳の分からないことを呟いて声の方に走っていきました、私も後を追います、私がマナカさんに追いつくと小さな女の子がグレイウルフというモンスターに襲われそうになっていました。

 

「貴女のマナカお姉さまが助けに参りましたわよ」

 

 マナカさんが女の子とグレイウルフの間に割り込みます、グレイウルフは単体ではそこまで強くありません、集団で狩りを行うモンスターです、しかし一匹しかいないという事はおそらくはぐれでしょう。マナカさんならまず負けない相手です。

 

「お姉さま……?」

 

 女の子は恐怖で動けなくなっていたのですけどマナカさんの登場と変な登場のセリフを聞いてポカンとした表情になってしまいました。

 

「ええ、可愛いお嬢さん。貴女の悲鳴が聞こえたので助けに来ましたわよ、さあ立てますか?」

「は、はい」

 

 女の子が立ち上がるのを確認するとマナカさんは微笑みながら頷きます。

 

「さあ、危ないですから少し後ろにさがっていてくださいましね。五秒でカタをつけ――」

 

 マナカさんが言い終わる前にグレイウルフがマナカさんに飛び掛かっていきましたマナカさんはまだ女の子の方を向いています、ですがその刹那――

 

「キャイン!!」

 

 グレイウルフが横に吹っ飛ばされてそのまま動かなくなりました、見るとマナカさんの裏拳がグレイウルフの顔にヒットしていましたやはりマナカさんは凄いです。

 

「やれやれ、ワタクシと可愛いお嬢さんの会話に割り込むとは無粋なオオカミさんですこと」

 

 女の子は驚いた表情でマナカさんを見ています。あれを見たら普通は驚きますよね、マナカさんの華奢な体からあのような攻撃が繰り出されるなんて思いませんものね。

 

「お、おねぇちゃん凄いんだね」

「ふふ、当然ですわ。あとワタクシの事はお姉さまって呼んでくださいまし」

「うん、わかった! 助けてくれてありがとうお姉さま!」

「うふ、うふふ。いい響きですわね」

 

 マナカさんが恍惚とした表情で悶えていました……所々残念な人です……ですが残念な所も含めてマナカさんなのでしょうね。

 

「さて、ワタクシは街に帰るつもりですがお嬢さんはどうしますの?」

「私も帰る途中だったんだ、そこであの大きなオオカミに襲われちゃったんだ」

「そうでしたのね、ではワタクシと一緒に帰りましょう」

「いいの? ありがとう!」

 

 こうしてマナカさんと女の子は手をつないで街に向かいました。

 街に帰ってきたマナカさんは女の子をつれて孤児院の方に向かいました、どうやらあの女の子は孤児院の子だったようです。

 アルティアさんが出て来てマナカさんにお礼を言っていました、マナカさんとアルティアさんは少し話すとマナカさんに改めてお礼を言いました、その後マナカさんはまた移動を開始しします。

 そろそろ夕方になので外も暗くなり始めています、マナカさんもどうやら宿に戻るようです。

 

 マナカさん、今日は基本的に戦闘に関する訓練を中心に過ごしていました毎回こうなのかは分かりませんがそれが私のためでもある事を知れたのはとても嬉しく思える一日でした。

 

 私は宿に入るマナカさんに偶然今会った風に装って夕食にでも誘おうと思います。

 

 

「あ、マナカさん偶然ですね、どうです今から一緒に夕食でも食べませんか?」

「あら、マウナさんからディナーのお誘いですわね、断るという選択肢が今のワタクシにはありませんわね。ええ、当然よろしいですわよ」

「良かったです」

「あら? とても嬉しそうな顔ですわね何かいいことでもありました?」

 

 はい、マナカさんという人の一面がまた少しわかったことが嬉しいんです。声にはだしませんが本当にそう思いました。

 

「秘密です」

 

 私がマナカさんにそう言いながら微笑みかけると、マナカさんの顔が真っ赤になっていました。

 

「ふふ、秘密ねわかりましたわ。さあ、マウナさん席が埋まってしまう前に行きましょう」

 

 こうして私のマナカさん観察は終了です。

 これからもよろしくお願いしますねマナカさん。

 

 

 

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